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Ⅰ.はじめに
最近,混合性難聴や中等度感音難聴に対して埋め込み型補聴器という新たな治療手段ができ,今後の臨床応用が期待されている。その中の1つである埋め込み型骨導補聴器(bone-anchored hearing aid:BAHA)は1977年にスウェーデンで最初に行われ,耳介後部の骨に埋め込むチタン製のインプラントと外部に装着する骨導補聴器(サウンドプロセッサー)からなり,音声情報を骨振動として中耳を介さず直接蝸牛に伝播し,聞き取る方法である(図1)。
骨導補聴器は18世紀から使用されているが,気導補聴器に比べ周波数レスポンスが悪い,出力が不十分,取り扱いが困難などの理由で限られた条件で選択されることが多かった。すなわち,慢性中耳炎や慢性外耳道炎による耳漏で気導補聴器の挿入継続が困難な場合や,先天性の外耳道閉鎖症で気導補聴器の挿入ができない場合に骨導補聴器が使用されてきた。
1960年,スウェーデンのBranemarkら1)がチタンの骨融合性が良好なことを示して以来,歯科や頭蓋顔面再建領域にチタンが多く使用されるようになり,1977年Tjellstromら2)により側頭骨に埋め込んだチタンを介して音伝道させる方法が始められた。これまでの骨導補聴器は音振動子を側頭部の皮膚に当て,音の振動エネルギーが皮下組織を介して骨に伝わっていくため,途中の皮下組織で高周波数成分や振動エネルギーが吸収される欠点があった。少しでも振動エネルギーの吸収を減らすため,音振動子を皮膚に強く圧迫し,密着度を上げる必要がある。そのため骨導補聴器の装着具合で聞こえが変化し,安定した聞こえを得にくいことと,圧迫するためのヘッドバンドやメガネなどが必要になり(図2),審美性にも問題があった。
これまでの骨導補聴器と比べてBAHAシステムの優れた点は,音の振動エネルギーが途中で吸収されることなくチタン性インプラントを介して直接骨に伝わることによる音質の改善,特に高周波数領域の情報が増えることと,選択するサウンドプロセッサーによっては審美性にも優れていることである。BAHAシステムは,諸外国では既に約18,000~20,000例以上の患者が使用している。このうち3/4が最近3年間の新規装用者である。米国では1996年から本格的に始まり,2002年には550例,2003年には1,400例,2004年は2,000例のBAHA手術が行われていると聞いている。欧米では一般的治療法として浸透しているように思われる。しかし,本邦では東京医科歯科大学の喜多村先生3)が2001年に始めて以来,現在までに数施設が行っている状況である。今後聴力改善手術の1つの選択肢となっていくと思われるBAHAシステムについて,最近のトピックスを含めて紹介する。
なお,BAHAシステムはスウェーデンのエンティフィック・メディカルシステムズ(Entific Medical Systems)社が扱っている。
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