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Ⅰ.はじめに
末梢性顔面神経麻痺の原因として最も多いものは,原因不明の特発性麻痺,いわゆるBell麻痺であり,末梢性顔面神経麻痺の約70%を占める。次いで,水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus:VZV)の再活性化により,耳帯状疱疹,末梢性顔面神経麻痺,第8脳神経症状を呈するRamsay Hunt症候群(以下,Hunt症候群と略)が多い。そのほか,中耳炎,顔面神経しょう腫や耳下腺癌などの腫瘍性病変,側頭骨骨折や顔面の外傷などにより末梢性顔面神経麻痺が発症する。そのためBell麻痺の診断に当たっては,末梢性顔面神経麻痺を起こすあらゆる疾患を念頭に入れて除外診断を行うことが重要である。
Bell麻痺の原因としては,血液循環不全やウイルス感染などが挙げられてきた。中でもウイルスは,最も疑わしい原因の1つである。特に最近の分子生物学的研究の進歩により,単純ヘルペスウイルス1型(herpes simplex virus type 1:HSV-1)の再活性化がBell麻痺の1つの病因であることが明らかになってきた。しかし,後述するようにHSV-1が原因となっている症例の診断は困難であることが多い。一方,VZVの再活性化により疱疹を伴わずに末梢性顔面神経麻痺が発症することがあり,無疱疹性帯状疱疹(zoster sine herpete)と診断される。Zoster sine herpeteはBell麻痺とは臨床所見からは鑑別が困難であり,適切なウイルス学的診断が施行されなければBell麻痺と診断されてしまう。
本稿では,末梢性顔面神経麻痺の原因診断について,症例を呈示しながらそのポイントを解説する。
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