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Ⅰ.はじめに
感音難聴の予後は一般に不良であるが,急性に発症する突発性難聴は改善が期待できる感音難聴の代表的疾患であり,耳科領域の救急疾患としての認識が高まっている。しかし,残念ながら突発性難聴に対する特効的治療法はいまだ確立されていない1,2)。1973年に旧厚生省突発性難聴調査研究班により突発性難聴の診断基準(診断の手引き)が作成され,現在もこの基準にしたがって突発性難聴の診断が行われている3)。この診断基準では「原因不明」,「突然の発症」,「高度難聴」が診断に必要な主要項目となっている。この診断基準の詳細やそれに関する問題点は他項に譲るが,実はこれらの診断基準の項目が突発性難聴の治療法の確立を阻む要因にもなっている。診断基準の項目にもあるような(1)原因が不明である,(2)突然発症する急性感音難聴であること,(3)治療可能な時期が限定される,(4)自然治癒する場合がある,といった突発性難聴の特徴が治療法の確立を難しくしているといえる。
原因不明の疾患に対する治療法を確立することが困難であることは当然のことであろう。これまで突発性難聴の原因として,内耳循環障害やウイルス性内耳炎を想定して治療が行われてきたが,原因に対するピンポイントの治療法ではないことは明らかである。また,突発性難聴という確定診断をつけるためには,急性感音難聴を生じうるほかのすべての疾患を念頭に置いて,これらを除外しなければならない。しかし,初診時に突発性難聴の確定診断をすることは厳密には不可能であり,突発性難聴の疑いの診断のもとに治療を行うことになる。次に,突発発症する急性感音難聴であり,治療可能な時期が限定されることも治療法の臨床試験を行いにくくしている要因である。突発性難聴の多くは一側性難聴であり,回転性めまいや強い耳鳴などを訴えない場合は,重症感がなく日常生活にも大きな支障をきたさないこともあるため,医療機関を受診することが遅れることも少なくない。一般に,突発性難聴に対しては発症後2週間以内に治療を開始すべきであり,2週間を過ぎると治療効果は低くなるとされている。したがって,発症後2週間以内に現時点で有効と考えられる治療を行う必要があり,この短期間に二重盲検試験などのコントロールスタディを行うことは実際には困難である。突発性難聴が自然治癒する可能性があることも古くより指摘されているが,どのような症例がどの程度自然治癒するのかなどの詳細なデータはない。妊娠中に発症した場合や,ほかの全身性合併症を有する場合などの特殊な症例における観察で自然治癒が報告されている4,5)。治療法の有効性を証明するためには,自然治癒より有意に治療成績がよくなることを示す必要があるが,自然治癒の詳細が不明である現状ではこのような評価も困難である。
このように突発性難聴の定義から考えても,臨床的特徴から考えても,治療法の確立は困難であり,当面はいくつかの病態を考慮したカクテル療法が主体となると考えられる。突発性難聴の治療法に関しては,2003年に本誌のCurrent Article「エビデンスからみた突発性難聴の治療」で解説した6)。その後の2年間に治療法に関する特記すべき報告はないが,今回はその後の突発性難聴治療の報告例を加えるとともに,最近注目されている薬剤の鼓室内局所投与療法の現状を紹介する。
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