忘れられない患者
A君
吉村 長久
pp.159
発行日 2002年9月10日
Published Date 2002/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410907895
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13〜14年ほど前であったと思う。当時,高校1年生の男の子が両眼性の網膜剥離で入院していた。A君としておこう。かなり重症のアトピー性皮膚炎があって,頭髪はすべてなくなり,頭皮まで真っ赤になっていた。網膜剥離のほうはバックルでは治らず,ちょっと困った状況であった。ある朝,病棟で看護婦さん(当時は看護師さんではなかった)が,「先生,A君何とかして下さいよ」といってくる。どうしたのかと聞いてみると,なんとお母さんと同じベッドで寝ていたというのである。
A君の網膜剥離は硝子体手術で治り,めでたく退院となったが,外来にはいつもお母さんと一緒にやってきていた。何を尋ねても,答はお母さんからであった。アトピー性皮膚炎は相変わらず重症で,帽子を被って外来にやってきていた。ところがある日,驚いたことにA君が1人で外来へやってきた。帽子も被っていないし,頭髪も少し生えている。「ずいぶん大人になったね」というと,ちょっと嬉しそうにして帰っていった。
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