忘れられない患者
白銀の帯
松村 美代
pp.182
発行日 2002年9月10日
Published Date 2002/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410907904
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かけだしのころ,70歳代の男性の緑内障患者さんの病棟担当医になった。彼は10代のころから修行を積んだ西陣織の職人さんである。両眼とも進行した開放隅角緑内障で,片眼の視野は中心10°くらい,他眼はゴールドマン視野検査で検出できるかできないくらいの小さな中心視野であったが,視力はかなり良好であった。入院されたものの結局手術にはふみきれず退院になったが,いつも穏やかな表情で話をされるのが印象的でいつまでも記憶に残った。
何年後かに緑内障外来で出会った彼は,片眼の視力を失い,10°あったほうの眼の視野も5。くらいになり,視力は0.1くらいに低下していた。水晶体後嚢下混濁があり,白内障手術によって視力の改善する可能性はあるが,すっかり小さくなった視野を維持できないかもしれない。彼は,もし手術後に視野が消えても,「それも運命ですから」と淡々とした口調で手術を希望された。幸い視野は保たれ,視力0.6を得た。
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