シネマ解題 映画は楽しい考える糧[33]
「明日,君がいない」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.215
発行日 2010年3月15日
Published Date 2010/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101879
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自死に至る若者の孤独と生きづらさ
こんなに観るのがつらい映画も滅多にありません.今私は40代後半になり,青春とは無関係な年になりました.だからこそ冷静に鑑賞できたのだと思います.高校生や大学生になりたての時期なら,あまりにも身につまされてとても最後まで観続けることができない,心理的に耐えられない映画になったかもしれません.いわゆる「痛い」映画です.監督は本作品公開時にはまだ21歳で,自分の高校時代の経験―知人の自殺―をもとに物語をつくり上げたとのことです.凄いですね.彼の心に対する知人の自殺のインパクトはとてつもなく大きかったのでしょう.
この映画は,生命倫理問題を主なテーマとして取り上げた作品ではありません.監督は7名の高校生の学校生活を彼らのモノローグを交えて,明るいオーストラリアの光のもと,淡々としかし時に激しく描いていきます.メインテーマは間違いなく自殺であり,登場人物のひとりがある日の午後2時37分に学校の一室でリストカットをして,物語は終わりました.十代の若者たちの苦悩,孤独,いじめ,恋愛と嫉妬,性が描かれます.つらい思いを誰にも打ち明けられない,周りも危機のサインを読み取れない,理解しあえない,ひとりで絶望を抱え込み,ある時限界を超えて衝動的に自傷他害に走ってしまう.そんな若者の心理が生々しく描かれており,「教材」という観点から見れば,倫理というよりは自死に至る心理に関する映画といえるでしょう.きわめて多くのことが学べると思います.
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