Siesta
ザルツブルグ音楽祭
坪井 俊児
pp.87
発行日 1993年10月30日
Published Date 1993/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410901889
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先日,インスブルックで開催されたESCRSに出席したついでにザルツブルグ音楽祭を訪れ,オペラ2本とオーケストラコンサートを鑑賞した。ザルツブルグ音楽祭はクラシック音楽の世界では有名で,トスカニーニ,フルトベングラーの時代からカラヤン,ショルティにいたるまで,時の著名な演奏家が競って出演する権威ある音楽祭として知られている。
ザルツブルグ祝祭大劇場で聴いたウイーンフィルの音も素晴らしかったが,それ以上に,祝祭小劇場で行われたモーツァルト初期のオペラ「ルチオ シッラ」に感心した。この天才モーツァルト17歳の時の作品は,いわゆる4大オペラと違って最初から最後までコロラトゥーラアリアの連続であり,現在の歌手達には演奏至難であろう。しかし,今回のような充実した演出と演奏によりこの作品を鑑賞してみると,後期の作品には見られない青春の輝きが感じられ,同時に聴いた「魔笛」の印象が薄れるほどのものであった。
正装した満員の聴衆は長いオペラを身じろぎ一つせず熱心に聞き入っており,日本でよくみかける船漕ぎはついに発見できなかった。「ルチオ シッラ」の演奏中に面白い場面を目撃した。タイトルロールを歌うイギリスの著名なテノール歌手が少し台詞をとちったように思われた瞬間のことである。私の右後方からブーともグーともつかぬ鼻を鳴らすような奇声が発せられ,一瞬会場が静まり返った(ように思われた)。いわゆるブーイングである。その直後,テノール歌手はより堂々と大げさな身振りで演奏を再開した。
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