特集 ゲノム解析の「今」と「これから」—解析結果は眼科診療に何をもたらすか
企画にあたって
西口 康二
1
1名古屋大学大学院医学系研究科眼科学分野
pp.1639
発行日 2022年12月15日
Published Date 2022/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410214648
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これまで,ゲノム医療すなわちゲノム情報の臨床応用は診断学の分野に限定されていた。代表的なものが眼遺伝性疾患のゲノム診断であり,古典的な解析手法を用いて,レーベル遺伝性視神経症の特定の遺伝子変異解析や網膜芽細胞種などの染色体検査が行われてきた。最近では,マルチプレックスPCRによる眼感染症の診断法が開発され,徐々に遺伝子解析技術の進歩が診療に反映されつつあるのが実感される。
しかし,実際のところは,日本の眼科のゲノム診療は国内外の医療のなかで大きく遅れをとっている。網羅的ゲノム解析技術として遺伝解析に革命的な進歩をもたらした次世代シーケンスの臨床実装は,欧米などの海外諸国ではかなり前から眼科領域で進んでおり,日本でも耳鼻科を含めた眼科外の多くの分野ではすでに始まっている。また治療に関しても,遺伝子診断による抗がん薬の選択や,遺伝性疾患の病因遺伝子に対する遺伝子治療などの治療の臨床実装も行われはじめている。眼科領域では,2017年にレーベル先天盲に対する遺伝子治療薬であるLuxturnaTMが米国で認可されたのは記憶に新しい。しかし同治療は,韓国をはじめ世界各国ですでに実臨床に導入されているが,日本で治療が行われるのは何年か先になる見込みである。このようなゲノム医療の発展の遅れは,日本の国民皆保険をベースとした柔軟性に乏しい医療システムに問題の一端があると思われるが,われわれにも問題がある。とにかく,日本で眼科のゲノム医療を推進するには,学会を主体としたアカデミアと関連企業が戦略的に手を組んで自ら国に働きかけを行う必要がある。
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