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新型コロナウイルスの猛威により,全世界の人々がウイルス疾患の重要性と恐ろしさを認識して3年になろうとしているが,皮肉なことにそれでウイルス感染症が非常に高い注目を集めている。眼科においてももちろん,ウイルス疾患が重要であるが,眼感染症という小さい領域の中の,さらに細菌感染症よりもマイナーな領域であり,専門家も少ない分野である。しかし,ウイルス性眼疾患は決して小さな分野ではない。アデノウイルス角結膜炎の患者数は非常に多く,眼科医として遭遇せずにすませるということはできない。また,ヘルペスウイルス科のウイルスは我々の体内に潜伏しているがために,いろいろな眼疾患を診ていくうえで,鑑別疾患として必ず俎上に載ってくる。思わぬ症例が実はヘルペスであったということは実は日常臨床で結構な頻度で起こっているし,起こっていて気づかずに過ごされている場合もある。そして,サイトメガロウイルス虹彩炎・角膜内皮炎,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎のように,ウイルス疾患であることが最近になって判明してきたものもある。また,従来は感染の部類には入らなかったような感染細胞自体が悪玉となる疾患,具体的にいうと乳頭腫やHAU(HTLV-1-associated uveitis)も広い意味でのウイルス性疾患として包括されるようになってきている。おそらく,今後,原因不明の疾患が実はウイルス性であったということが次々と明らかにされてくると思われるし,我々にとって未知のウイルスもまだまだ多いことから,ウイルス性眼疾患の領域はますます広がっていくことと思われる。
本特集は,このパンデミックの時代にひとまず現状でのウイルス性眼疾患をまとめて勉強していただこうと企画したものである。新型コロナウイルスに人間社会がこれだけ翻弄されている様子を俯瞰すると,まるで,ウイルスたちに頭脳があって,我々のことを嘲笑っているかのようにも見える。ウイルスのなかには我々の体内に潜伏感染したり,なかには染色体に組み込まれたりして,人類が滅びない限り滅びないような共生の戦略をとっている優れものもあり(仮にウイルスたちの国があれば,核兵器禁止条約に署名したいところであろう),一筋縄では対処できない。この文字通り,獅子身中の虫ともいうべき強く賢い敵にどう対処していけばよいのか? 答えは簡単には見出せないが,我々も賢くならなければとても太刀打ちできないのは必定である。本特集がそれに向けての一つのきっかけとなれば幸いである。
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