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はじめに
わが国におけるコンタクトレンズ(CL)装用者数が2000万人に迫ろうとしている。一時期ライバルと思われたレーシックなどの屈折矯正手術が,施術を受けた時点の技術を超えないのに対し,CLは常に進化した新しい技術の恩恵を受けられるという点において,今なおアドバンテージをもっている。
CL性能の基幹となる材料の開発には,酸素透過性,光学性,耐久性,水濡れ性,耐汚染性といったさまざまな機能が要求され,機能性高分子学の世界では非常にモチベーションが掻き立てられる分野である。今も拡大する巨大市場に支えられたCLの材料開発は進歩を止めず,その具体的成果としては,裸眼時とほぼ変わらない酸素供給能力の獲得,使い捨てCLによる汚染性の解決,表面の親水処理技術や生体模倣材料による生体適合性のさらなる向上などが挙げられる。
特に,CL材料の酸素透過性能は至上命題とされてきたため,ハードCL(HCL)用材料を中心に飛躍的な進歩をみせたが,その一方でCLの水濡れ性の悪化が指摘されてきた。すなわち,1975年ごろ登場したセルロースアセテートブチレート(CAB)から,酸素拡散係数の非常に高いシリコーン系材料や,酸素溶解係数の高いフッ素系材料への変遷がみられ,酸素透過性素材開発の一定の方向性が示されるなか,シリコーンもフッ素系材料も,それら特有の強い撥水性がHCLの不良な水濡れ性を引き起こしているのである。
一方,酸素が水を担体として運ばれる含水性ソフトCL(SCL)材料の酸素透過性は,その含水率に依存し,1960年に登場したポリヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)から,これにメタクリル酸を組み合わせたり,N-ビニルピロリドン,ジメチルアクリルアミドを用いたりして,ハイドロゲル材料の高含水化を図る方向で改善されてきた。こうした高含水SCLでは乾きやすさが問題となり,さらに最近ではハイドロゲルの高分子網目構造自体に,超酸素透過性ではあるが撥水性かつ親油性のシリコーン誘導体を導入したシリコーンハイドロゲルレンズが登場した。ここでもやはり,レンズ表面と水との相互作用にフォーカスが当てられるようになった。酸素透過性能においては一定の成果を得た現在,CL材料の進歩とは,オキュラーサーフェスにある水をいかにコントロールするかという戦いといっても過言ではない。
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