私の経験
涙管ブジー
長谷川 信六
pp.683
発行日 1958年4月15日
Published Date 1958/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410206340
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1.「ブジーは痛い」を追放せよ
成人の流涙症の場合,涙管ブジーを挿入しても余り効果は期待出来ないが,10人に1人位はたとえ一時的にせよ治癒する者があるので,万更棄てたものでもない。私は流涙症には1〜2回は一応試みて見るが,只,ブジーを通すと云うと患者は誰でも「あれは痛いそうですネ」と云う。ブジーは痛いと云うことが世間の通り相場になつているようである。事実,痛いちしい。私は且つて先輩の広田敏夫先生の体験談を聞いたが,最も痛いところは涙小管と涙嚢との移行部,即ち,ブジーを90度廻転するところだと云う。それで,私はブジー挿入の際は移行部近囲に2%のノボカイン0.5〜1.0ccを注射している。その結果は患者に殆んど苦痛なしにブジーを通すことが出来る。僅の労であり平凡なことだ。然るに,こんな平凡なことが一般に行われず,ブジーは痛いと云うことが依然として世間の通り相場になつている。尤も,一般教科書には点眼麻酔を行えと書いてあるが,流涙症に点眼麻酔を施しても肝腎の涙嚢は麻痺されないから意味がない。敢て切創を加えなくとも痛いものは痛いのであるから,徒に患者に苦痛を与えぬよう,ブジー挿入の際は注射による局所麻酔を施すべきだ。ブジーは痛いと云う眼科医には不名誉な声は追放すべきであると思う。
尚,涙管ブジーは1〜2回試みて効果のない時は何回試みても無意味だと思つている。
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