私の経験
眼科研究50年(1)
石原 忍
1
1東大
pp.811-818
発行日 1957年5月15日
Published Date 1957/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410206056
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まえがき
私が眼科学を専攻するようになつたのは,明治41年12月,私が陸軍から東京帝国大学大学院に入学を命ぜられ,河本重次郎先生の御指導を受けるようになつた時からである。どうして私が眼科をやるようになつたのか,また更にさかのぼつて,どういうわけで医科にはいつたのか,最初に簡単にのべておこう。
私は中学時代には天文学に興味をもつていた。それは中学の地文の教師が有能の人で,その講義が非常に面白かつたからである。高等学校にはいる時,私は,当時下ノ関の要塞砲兵聯隊長をしていた父に,その話をした。父は「天文学では将来生活に困りはしないか。自分は陸軍の軍人だが,今までに何度か勤めがいやになつて,やめたいと思つたことがある。しかし,やめたら子供の教育も出来なくなるしいやいやながら勤めていなければならず,これが非常に苦痛だつた。これに反して部下の軍医は,時々,もういゝかげんにやめさせて下さいなどと頼みにくるので羨ましい。医者ならば軍人にもなれるし教師にもなれる。またいやならばやめて開業することも出来る。お前も医者になつたらよかろう」と説得してくれた。私は当時,医者というものは人の家に往診をしてはお世辞をいつてペコペコするもの,ぐらいにしか思つていなかつたから,あまり賛成しなかつたがとにかく父のいうことをきいて医科にはいることにした。しかし開業はいやだから軍医を志願して依託学生になつた。
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