書評
サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原書第4版
黒川 清
1,2,3
1政策研究大学院大
2日本医療政策機構
3東大
pp.1964-1965
発行日 2013年12月15日
Published Date 2013/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410105057
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本書はサパイラDr. Joseph D. Sapiraによる“Sapira's Art & Science of Bedside Diagnosis”の第4版(2009)の邦訳である。1989年の初版以後,原書はDr. Jane M. Orientによって著されている。不思議な本と感じるかもしれないが,臨床の神髄,醍醐味(だいごみ)が盛り込まれている。臨床の基本を患者との関係性(診る,聞く,話す,触る)から始め,記録し,分析する―。単なる臨床診断学というよりは,長い歴史の上に蓄積された経験値を論理的に考える過程で構築されてきた,医師と患者の「信頼」の歴史をひもといているのだ。
現在の臨床の現場では,えてして「効率,コスト,検査」から始まり,ともすれば患者不在の「検査データに基づく現代風デジタル診療」と指摘される。そこから患者と医師の「信頼」関係が薄れ,医療事故や訴訟などへ発展するかもしれないと不安な,医学生,研修の現場への応援の書ともいえる。臨床は「アートとサイエンス」の神髄の伝統であり,その伝統を自分自身も継承してきた優れた先輩医師の気持ちだろう。これが良い伝統を次の世代へと受け渡す「好循環」の基本なのだ。このあたりが,このサパイラ本の面目躍如というか,他の臨床診断学の教科書と違っているところだ。
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