書評
「サパイラ 身体診察のアートとサイエンス 原書第4版」―Jane M. Orient 原著/須藤 博,藤田芳郎,徳田安春,岩田健太郎 監訳
青木 眞
pp.80
発行日 2014年1月20日
Published Date 2014/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413103417
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●身体診察の今日的意義
本書を手に取った瞬間,最初に強く意識させられるもの,それは決してその難解な医学史的考証やラテン語文法の記載ではなく「南部」(米国南部)である。サパイラ自身が研修医時代を過ごした南部には独特の時間が流れている。それは北東部の競い合うような荒々しい速さとは極めて異質な,どちらかと言えば湿度の高い緩やかに変化する時間とでも言おうか。
本書は序文から「現代医療に最も不足しているもの。それは時間である」と指摘する。外来患者が午前中だけで20~30名(診察時間は1人平均5分あれば御の字)であり,スピードとテクノロジーが好まれ,情報がアナログからデジタルに変わって失われたものへの思いが薄く,医学部を平然と理系とする日本。このような国で,習得に多大な時間と忍耐・労力を要し,得られる所見の普遍性や境界の鮮明さに安定感を欠きやすい身体診察の本が,そして患者の訴えの背景にある人生に思いを馳せることを説く本書がどのように受け入れられるか。これが評者の最初の懸念であった。しかし繊細な人間関係・師弟関係を重視し,収入や利権と無関係に向学心・向上心が高く,経験値が物言う職人芸を愛し,その伝統・伝承を重視する日本の文化は南部的身体診察の文化と重なりも大きいと気付いた。もちろん肺炎には全例胸部CTなどという贅沢を続けさせる経済力に陰りが見え,身体診察が見直されるべき時期に日本が置かれている事は別としても……。
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