- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
糖尿病網膜症や網膜血管閉塞疾患など,眼循環の異常を疑う患者が受診した場合,最初に考える検査は,眼循環の評価法として最も汎用されている蛍光眼底造影であろう。この検査法を用いて,循環時間の遅延,無灌流領域の検出,新生血管の有無など,治療方針を決定するうえで大変有益な情報を得ることができる。この検査法は開発されて半世紀近くになるが,いまでも日常臨床で広く用いられている。
しかしながら,この蛍光眼底造影にも改善されるべき問題点が存在する。特に,稀ではあるがある一定の確率で引き起こされるショックは時に死亡に至る重篤な副作用であり,アレルギー反応陽性の症例に対しては使えない。また,造影検査である以上侵襲的検査であり,肝障害,腎機能低下など全身状態の悪い症例に対しても施行できない場合がある。
もう1つの理由としては,蛍光眼底造影検査は「定性的」検査であることが挙げられる。例えば血流の程度を評価する際には,無灌流領域の検出など,蛍光眼底では血流の途絶の有無という大まかな捉え方しかできない。これでは病理学的変化の起こる前の段階で早期に異常を検出できない。例えば糖尿病網膜症を例にとっても,動物実験の結果から網膜症という病理変化が引き起こされる前から網膜血流量が低下(途絶ではない)し,これが網膜虚血,組織低酸素などを介して病態の進展に深く関与していることが明らかとなっている。病理学的変化の起こる前の段階に異常を検出し,適切な介入を行うことで血流低下を是正することができれば,網膜症の発症を未然に防ぐことができるかもしれない。
糖尿病や動脈硬化は網膜硝子体疾患に深く関与していることは明らかであるが,これらはいわゆる生活習慣病である。病変を早期に検出できれば,生活習慣を変えることでその後の進展を予防できる可能性がある。生活習慣を変えるうえで,血圧や血糖値のように,目安となる数値が眼循環の程度を把握するうえで必要である。21世紀は予防医学の時代といわれて久しいが,医療費抑制の観点からも,予防医学の充実が期待されている。このため,非侵襲的に,かつ「定量的に」,眼循環を評価する方法の確立が期待されている。
Copyright © 2008, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.