連載 あのころ あのとき 28
自己表現の日々
湖崎 克
1
1湖崎眼科
pp.416-418
発行日 2003年4月15日
Published Date 2003/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410101165
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明治は遠くになりにけり
昔の日本男子は,あまりしゃべらないことを美徳としていた。明治生まれの父に,「お前はおしゃべりである。男は黙っているものだ」とよく叱られた覚えがある。そういえば“男は黙って○○する”という言葉が流行ったような気がする。ところが戦後アメリカ映画がどっと入ってきて,向こうの男性がよくしゃべり,大袈裟な身振りをすることに,日本男性の多くはカルチャーショックを受けたものである。あの表現でなければ自分の主張が通せないのか,女性を口説けないのかということで明治の人からみれば全く驚きであり,ひんしゅくものであったろう。しかし,今から考えても愛をうち明けるのに,黙って感じてくれ,というのでは勝手な話であるし,いかにもまだるっこく,本当に通じたかどうかわからない。やはり言葉で,適切なボキャブラリーを使って,時には身振りも入れて訴えるべきであろう。シラノ・ド・ベルジュラックやイタリア男のようにはいかなくとも,である。そこで「明治は遠くなりにけり」となる。
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