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はじめに
従来より,後頭葉視覚野を電気的ないし磁気的に刺激するとphosphene(閃光点)やscotoma(暗点)などの誘発視覚が生じることが知られている1,2)。この現象を応用して,後頭葉視覚野に小型多極電極を植え込み,小型CCDカメラなどから得た視覚情報をコンピュータ処理して適切な刺激信号に変換し,電気刺激をすることで人工視覚を得るのが大脳皮質刺激型電極の原理である(図1)。この脳と電子機器との間の信号処理・伝達を有機的に行うシステムは脳-コンピュータインターフェース(brain computer interface:BCI)と呼ばれ,脳機能再建の鍵となる技術の1つとされている3)。
人工視覚の対象疾患としては糖尿病性網膜症,緑内障,網膜色素変性症,加齢黄斑変性症,外傷性視神経損傷,脳腫瘍などが挙げられる。このうち網膜色素変性症や加齢黄斑変性症などの網膜神経節細胞の障害が基本的にない疾患に対しては人工網膜が開発されつつある。これに対して糖尿病性網膜症や緑内障では網膜神経節細胞が障害されるため,網膜レベルでの人工視覚が困難である。このような疾患では視神経より中枢レベルでの人工視覚,特に大脳皮質刺激型電極が有望視されている。組織再生工学的手法で大規模な神経回路の機能を再生するには少なくとも現時点では数多くの問題点があることもあり,この大脳皮質刺激型電極は組織再生工学的手法と並んで人工視覚再建法として期待されている。
大脳皮質刺激型電極を用いた人工視覚としては,Dobelle4)が後頭葉多極脳表電極と携帯型コンピュータ処理装置を用いて実用的視力を得ることに成功したと報告し,注目された。しかし電気刺激の具体的な方法については明らかにされておらず,依然として確立した技術には至っていない。したがって適切な刺激方法の確立が当面の課題の1つとなっている。
1980年代以降,視覚情報の脳内処理機構の解明が進み,視覚情報は外側膝状体を経て一次視覚野皮質の第4C層に入力され,神経カラム内で処理されて特定の層へ伝送され,形態,色,運動といった各種の視覚要素に対応した高次視覚野皮質に投射されることが明らかになってきた(図2)。筆者らはこの視覚野皮質の層構造・カラム構造に着目し,視覚野神経カラムを刺激することで色,動き,形をもったより自然な視覚機能再建の可能性があると考えている。現在,至適刺激条件確立のため,一次視覚野電気刺激により周囲視覚野に誘発されるスパイクの性状を動物実験にて調べているので紹介する。
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