今月の臨床 妊娠中毒症—どのように変わったか
トピックス
1.中毒症予防法の開発
伊藤 昌春
1
1熊本大学医学部産婦人科
pp.300
発行日 1997年3月10日
Published Date 1997/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409902869
- 有料閲覧
- 文献概要
近年,妊娠中毒症(以下,中毒症)は,減少傾向にあるものの,いまだに妊産婦死亡や周産期死亡の主たる誘因であり,その予後は高血圧や蛋白尿と密に相関している.中毒症の主要な病態である細動脈の攣縮に注目したアンギオテンシン感受性検査や,指尖容積脈波分析などによる発症予知に加え,予防の試みも臨床的に行われている.しかし,特異的な予知検査がないため,多くは発症危険因子を保有する妊婦を対象として試みられている.
疫学調査により,飲料水の硬度と高血圧や動脈硬化性心疾患による死亡率が逆相関することや,中毒症妊婦では尿中へのカルシウム(Ca)排泄量が少なく,Ca摂取量が少ない地域(日本を含め)では中毒症の発症が多いことなどが報告されている.最近,高血圧患者のCa摂取量は少なく,とくに食塩感受性高血圧症例では食塩非感受性に比べ経口Ca投与によって,より血圧が降下するとの報告もあり,Ca投与と中毒症発症との関連が調べられている.筆者らは,妊娠ラットや妊婦へCaを補充すると,量依存的にアンギオテンシン(A-II)に対する昇圧反応が低下するとの成績に基づいて.Ca剤と腸管からの吸収を促進するビタミンD3を組み込んだ管理手順に沿って妊婦管理を行い,妊娠高血圧症の発症が有意に低下することを明らかにした.現在,内外の多施設においてCaによる中毒症予防の臨床研究が行われている.
Copyright © 1997, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.