ヒューマンバイオロジー--臨床への展開 流産
自然流産の病態
竹内 正七
1
Shoshichi Takeuchi
1
1新潟大学医学部産婦人科学教室
pp.67-70
発行日 1985年2月10日
Published Date 1985/2/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409207118
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胎芽とトロホブラスト
自然流産の病態は近時急速に明らかになり,今や日常臨床において,この正しい理解は欠かせないものとなった。従来,尿中HCGのみを測定して,5,000IU/L以下になったら流産の可能性が高いという立場から自然流産を取扱っていた頃は,臨床の事実と必ずしも一致しないことが多かった。しかし,超音波断層法の技術の導入と,その性能の向上により妊娠初期の胎芽(胚) embryoの生死を判定できるようになって,自然流産の病態が臨床レベルでかなり解明できるようになった。
勿論,自然流産の病態はHertigら(1940)以来の病理学的研究や,Carr (1971)らやBoūéら(1975)以来の染色体学的研究により,かなり明らかにされてきたが,いずれも排出された流産物を材料としての研究であるため,どのような過程で流産に到るのかは推定にとどまらざるをえなかった。この点,超音波断層法やHCGの測定法の進歩によって,臨床レベルで流産にいたる過程を追究された知見と従来の基礎的研究により推定されていたことが,非常に良く一致することが明らかとなった。すなわち,自然流産の多くにおいて,かなり早い時期に胎芽の死亡が起こるが,トロホブラストの機能は直ちに低下せず,数週の後HCGが急速に低下して自然流産に到るものであることが明らかになった。逆に,胎芽の生存が確認されたものからの流産は極めて少ないことも明らかとなった。
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