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Ⅰ.各種心身鍛練法にみられる呼吸方式
息することはすなわち生きることであり,組織細胞における内呼吸を援助するための血液循環とともに,(外)呼吸は生きるための絶対要件である。本節ではまず呼吸に関するphysical careを一般的な立場から考えてみたい。
呼吸運動にあずかる肋間筋は胸髄からの肋間神経,横隔膜は頸髄からの横隔神経の分布を受けているが,ともに延髄にある中枢性呼吸中枢からの刺激伝導路である。頸動脈洞と大動脈弓には末梢性の呼吸中枢があり,肺胞壁には迷走神経知覚路末端がある。これらによって血圧・循環・呼吸運動の状態に応じて反射性の呼吸調節が行なわれ,また大脳半球における高位中枢の情動的変化に反応して呼吸に変化を生じる。化学的な調節としては血中のO2は主として末梢性の,CO2は中枢性の呼吸中枢に敏感な作用を及ぼす。かように呼吸は自律神経系の管理下にあるが,他方体性神経的に随意筋を駆使して任意に呼吸運動を左右することも可能である。他種内臓器官がすべて完全な自律神経系の管理下にあるのに比して全く特異であり,呼吸運動を有力な拠点として意志的に自律神経管理下の機能に介入しその不調を調整したり,または体性神経管理下の機能を自律神経系の管理に調和させるというような可能性を与える。したがって自律神経失調症や心身症の治療あるいは各種の健康増進法,精神修養法,心身鍛練法などの手段として固有の呼吸法が利用されている。たとえばSchulzに始まった自律訓練法7,8,5)では自己暗示に用いる6種の公式暗示のうち第4段は「呼吸が静かである」という呼吸の調整を行ないながら弛緩をはかることになっている。自律訓練法の基盤としては全身の弛緩relaxationが働いているが(弛緩法はJacobsonに始まり独立した健康法としても唱導されているが),その際に体性神経性の自己と自律神経性の自己とを平静な呼吸のもとにその調和をはかる点は自律訓練と同趣旨である。ヨーガの医学的研究者であるBrena3)によると体性神経性・自律神経性・内分泌性の3者の自己を一体化して完全な人間となるのがヨーガ修練の目的とのことであり,ラージャ・ヨーガの数段階の修業のうち第4段階のプラナヤーマPrana-yamaは呼吸系統を意志によって自由自在にコントロールする技術とされる。呼吸活動こそ人間の実体をつくる3系統を合体させる手段であり,ヨーガ修業のキーポイントといわれる。実際には横隔膜・肋間筋を総動員して規則正しく呼吸し,息を吐く時間を吸う時間より長めにし呼息のあと若干の休止(少なくとも吸息のと同じくらい)時間をおく。修業を積むと呼吸数は1分間4〜6回にも減じ心拍数も激減する。プラナヤーマは筋肉・自律神経系に深い弛緩をもたらすもので皮膚電気抵抗の増加がみられるという。
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