特集 子宮の手術--最近の焦点
子宮全摘後の性機能
足立 春雄
1
Haruo Adachi
1
1徳島大学産婦人科
pp.949-955
発行日 1971年9月10日
Published Date 1971/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409204489
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まえがき
子宮摘除術後の性機能を考察するに当っては,婦人の性欲または性機能の全貌に関しての知識を一応整理しておく必要があろうかと思われる。元来,性欲または性行動が,あたかも食欲などと同じく動物の本能であるように理解されてはいるが,事実,性欲または性行動が食欲や口喝と全く同じ形の本能であるか否かは,いささか疑義がないでもない。とくにヒトの場合は一層複雑で多くの因子が関与するため極めて明確に本能であるとはいい切れないものがある。
動物実験とくにヒトに最も近い猿でさえも,生後雌性猿の子動物だけで飼育した雌は成熟後発情期に雄と同じケージに入れても性行動を起こさないだけではなく近づいてくる雄動物を追つぱらつてしまい,逆の場合にも逆の現象が起こることがHarlow1)によつて報告されている。ヒトの社会では,先に述べたように環境,教育マスメディアなどの影響によつて,著しく左右されるものであつて,その他にも情緒的な変動によつても,個人間に大きな開きがあり,とくに,女性では男性の場合のように焦燥的,欲求的ではなくて,むしろ冷却的であり拒否的であるともいわれている。かの有名なKinsey報告にみられるように白人の男子については1週間の放出飽和は0〜29回におよぶとされているが,女子の場合には一生性欲を経験しないものがあり,また強いものは男子より放出回数が多いともいわれている。筆者もかつて卵管結紮術後患者に性機能のアンケートを取つたことがあるが,結論的にいって肉体的の影響よりも心因的な影響を強く現わすような結果を得た。
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