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患者管理,手術手技,抗生物質,麻酔などの進歩により,一昔前にはSFか夢物語でしかなかつた心臓移植というような大手術が行なわれる時代になつた。同時に,各種の合併症を伴い状態の悪い患者,いわゆるpoor risk患者にも手術を遂行することができるようになつた。本稿では,かかる合併症のある患者の麻酔管理についていろいろ考えてみたい。
定時手術はもちろんのこと,緊急手術においても,できる限り患者を最良の状態に持つて行つた後,初めて手術にふみきるのが原則である。Porp-hyriaの場合にはBarbiturateを投与してはならない,ショックにおちいつている患者に脊椎麻酔を行なうのは危険である,電気メスを術中に使用する場合には爆発の危険があるEtherやCyclo-propaneを用いるべきではない,というような絶対的禁忌を除くと,ある状態下にある患者に対してある麻酔剤・麻酔補助剤の使用,およびある麻酔方法が危険性をはらんでいるということは,相対的禁忌のわくを出るものではなく,それらも慎重に応用すれば先ず安全に麻酔を行なうことができる。しかし,いかなる麻酔においても厳守すべき鉄則がある。すなわち,肺にもどつてくる混合静脈血の酸素加と炭酸ガス排出が充分に行なわれるように呼吸を管理すること,重要臓器への血流および末梢循環が良く維持されるように循環を管理すること,出血・体液喪失と輸血・輸液のバランスをよくとり,水分・電解質平衡を可及的正常に近く保つこと,である。さらに,手術成績を向上せしめるためには,前投薬に始まる麻酔管理を含めて,術前,術中,および術後を通じての患者管理に意を用いることが不可欠であり,術中のみに努力を集中しても良い成績は得がたい。
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