- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
子宮の血管系に関する状態学的研究は,主として月経出血機序に関し,内膜のラセン(コイル)動脈を中心に研究されているが,妊娠による子宮の増大につれて子宮体に分布する血管も伸展することを考えれば,子宮体部の血管系の形態は,内膜血管と同様に重要なものである。従来,月経機序解明のための内膜に関する血管などの研究1〜6)は多くみられるが,子宮体部の血管系,少なくとも子宮体の血管の摘出の報告はあまりみられない。それは描出方法に多くの困難と複雑な問題があるためであろう。子宮体部血管系描出の研究方法としては,ある物質を子宮血管に注入してその走行分布を観察する注入法か,または象形復成模型法がその主なものである。1913年Sampson7)がゼラチンを注入し,子宮血管には動静脈を問わず弁は無いと発表し,Okkels4), Schlegel8),Dalgaard5)らは色素を注入して内膜に動静脈の吻合を認めている。一方Holmgren9)は造影剤注入法を用い,X線写真により血管走行を研究しいる。BernhardとSemm10)は子宮動脈から合成樹脂を注入し,子宮血管の実像を作製し,子宮血管の上,下行枝および内膜に分布している動脈はラセン状であるが,体部に分布している動脈は放射線状で体部中央にて毛細血管網を作つて左右の子宮動脈の分枝が吻合していることを認めている。一方,象形復成模型法としては,Barthelmez11)が平面的象形復成模型法により筋円錐(muscle cone)の存在を発表し,河田12)も同じ方法で静脈系には血管系球があるという。斉藤2)は本法と墨汁注入法により,内膜血管には増殖期も分泌期も相違した所見はないと発表している。能勢34)は墨汁注入法,合成樹脂およびビニール注入法により子宮体内膜血管の形態と機能を検討し,増殖期,分泌期,月経前期とに応じた変化のあることを認めた。またアルカリホスファターゼ13〜16)を用いて子宮血管の描出および電子顕微鏡的研究17)も導入されてきた。私は血管を実像として得られ,また子宮全体の血管系を観察できるという意味から合成樹脂(アクロン)を用い,これを左右の子宮動脈より注入したのち,子宮組織を腐蝕溶解し,血管そのものの立体実像を作製し,子宮の血管走行分布を観察した。なお本法は鋳型作製法のため,子宮組織内における血管の部位的観察が困難なため,アクロン注入後子宮切片を作製し,細い血管をも詳細に観察した。
Copyright © 1970, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.