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最近,排卵に関する問題は,HMG,Clomid, F6066などの優れた臨床効果を示す新しい薬剤の登場によつて,多くの論議を呼び,産婦人科内分泌治療学上でも,一つの画期的な時代を形成しているともいえる。しかし,薬理作用の明らかなHMGなどは別とし,非ステロイド系新排卵誘発剤などでは,中枢性または末梢性と,その作用機点も複雑で,この領域の薬剤としては,久しく報告されていないような優れた臨床効果が認められているにもかかわらず,なお,多くの問題を提起している。たとえば,多胎あるいはsuper ovu-lation の問題、流産率の頻度が若干高いこと,またはその機序が同じであるかどうかは論議もあると思うが,排卵率に比較して妊娠率が低く,排卵後の黄体機能の問題との関連で,いわゆる着床不全型というものの存在の有無,さらにgeneticな問題として,初期発生過程への影響など,枚挙にいとまがないが,いずれの問題を取り上げても,これは単に薬剤の影響云々という問題ではなく,生殖生物生理学の基本的現象の解明なくしては解決されないものばかりである。紙面の制限で,これらの問題の全てを論議することは,とうてい不可能なので,その中の二,三の問題点について述べたいと思う。
排卵現象の基本的な因子の理解が,まだ十分に行なわれていない点は,合成化学の進歩によつて,さらに将来は作用機序が微妙で複雑な薬剤がますます出現してくる可能性を考える場合,重大なweak pointとなつてくるものと思われる。たとえば,卵胞破裂という排卵における,最も生物学的に基木的な現象の機序にしても,卵胞内圧の亢進説から卵胞表面の膠原線維網の酵素的融解説に至るまで,多くの仮説が報告されているが定説はなく,卵胞内での卵子の成熟過程と,それに関連した顆粒膜細胞の変化,閉鎖卵胞の機点などについても十分な説明がされていない。さらに卵胞内液の生化学的細胞の分析を含めて,卵胞内における卵子の減数分裂阻止因子と,その不活性化の過程は,全く解明されていない。排卵という問題の起点を、卵胞内での卵子のmaturationの第一歩にまで戻すことは,排卵された卵の卵管環境内でのviabilityを問題とする場合,不可欠の因子となつてくる。たとえば,臨床的に排卵誘発剤の投与中に排卵した場合を考えても,排卵された卵子が全く正常で,単にその受精,または初期妊卵の分割過程への影響を問題とする以外に,卵の成熟過程,すなわち卵胞レベルでの影響を考慮しなくてはならないということから,ますます複雑な因子が交叉してくることになる。最近,われわれは家兎やラッテを用いて,superovulation(過排卵)とか,de-layed ovulation(遅延排卵)の問題に関する実験を通じて,人工排卵卵子の生物学的特性から,卵のgeneticな問題を研究している。写真は,家兎にHMGを負荷して過排卵を惹起した卵巣であり,多数の出血卵胞を認める。これらの出血卵胞中の卵子の成熟過程,または卵の移植などによる卵子のviabitityについて検討をくわえている。Pro-estrus期の午後2時前後,従来から,ラッテではLH分泌が開始される直前の時期といわれているが,この時期にPentobarbitalを負荷すると,ラッテでは排卵抑制を生じ,腟スメアはestrusとなり,翌日,さらにPento-barbital負荷で排卵抑制は持続し,第3回目に雄を入れると交尾してくるが,これらの実験で,いわゆる卵胞内での排卵へのdelation,または過成熟の問題を追求している。もちろん,これらの哺乳類での変化が,そのままヒトの場合に当てはまるかどうかという結論はさておいて,前述のごとく,ヒトの排卵現象には,あまりにも多くの未知の分野が残されているという事実から,動物実験の結果についても十分な配慮が必要であると考えられる。
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