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乳房マッサージは,古くは「乳もみ」と呼ばれる専門家によつて行なわれていましたが,昭和10年ごろ慶応大の尾島信夫先生らにより,医学的に取り上げられ,助産婦により,原則として全産婦に数回施術されることになりました。ところが最近は,人手不足が激化し,乳房マッサージはあまり実施されなくなつてしまいました。私の妻が出産したときも,乳児はうまく哺乳できないし,乳房がひどく緊満したにもかかわらず,乳房マッサージはしてもらえませんでした。同様の苦しみにあつている産婦も沢山いました。
以来,私は乳房マッサージを手がけ,術式の改良など研究をつづけて来ました。すでにHirstや尾島先生によつて説かれているように,欝乳に対し急性炎に対するように,冷却と安静で待機的に処置するのは,産婦の苦痛に無能なだけではなく,乳炎の誘因ともなり,これを除去するのには,マッサージが最適です。それに母乳不足も,大半は吸啜困難に起因しています。私の経験によると,産婦は程度の差こそあれ,乳管の流通障害があり,分泌された母乳が円滑に流出しません。したがつて新生児はうまく飲めず,ミルクを足さざるを得なかつたり,無理に哺乳させたり,ポンプにかければ吸い傷ができてしまいます。そして結局,ミルクのくせがついてしまつたり,時に細菌感染も招きます。ところがこの乳管の流通障害だけは,薬物療法では治りません。それに柔らかい肌着が普及し,乳頭が弱くなり,吸い傷もできやすくなつてきました。それだけに乳管の開通を計り,欝乳の排除に著効のある乳房マッサージの必要性は,以前にもましています。先生方の中には,これを痛感しながら人手不足のために,実施を見送つておられる方が多いのではないでしょうか。
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