今月の臨床 着床--今日の焦点
ヒト妊卵着床に際しての子宮内膜の生物学的意義
杉本 修
1
,
中堀 等
1
,
後藤 百代
1
,
小西 政長
1
,
金子 義雄
1
Osamu Sugimoto
1
1京都大学医学部婦人科学産科学教室
pp.849-857
発行日 1968年10月10日
Published Date 1968/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203944
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はじめに
受精卵着床のmechanismは生殖生理の中でも最も難解かつ神秘な問題の一つである。基礎実験的にはラット,マウス,家兎,ハムスターなどの齧歯類を主体とした数多くの実験業績,すなわち偽妊娠あるいは泌乳時の遅延着床や脱落膜反応の導入により,着床環境における内分泌調節特に下垂体一卵巣系を主軸としたestrogen-psogesteronesynergism and antagonismが妊卵着床に及ぼす意義につき追求されている。
具体的にはestrogenおよびprogestoroneの量,バランスやレベルの時期的推移が,分割,分化,移送や着床(附着,穿孔)時の妊卵の形態や機能の推移,その際における子宮内膜の形態や機能,子宮内分泌物の生化学的変化などとの相関に与える影響について詳細な検討が試みられている。だがplacentationの多様性からもうかがえるように,着床時における卵・子宮内膜相関々係(ovo-endometrial relationship)は種属特異性が極めて著しいので,比較生理学的解釈には慎重な態度が必要である。臨床的な重要性にもかかわらず,方法論的,倫理的な制約上,ヒト受精卵についての知見は極めて乏しく,もつぱら着床期におけるホルモン動態や,子宮内膜の変化に対象がしぼられているため,これら相関関係の解明には多くの困難が予想されるのである。動物基礎実験に関する最近の知見については先に紹介したので30),今回は主としてヒト妊卵着床に対する子宮内膜の意義につき著者らの研究成績を織りまぜながら展望を試みたいと考える。
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