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DESKジョッキー(2)—別刷いたしかゆし
遠
pp.235
発行日 1963年3月10日
Published Date 1963/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202772
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どんな雑誌でも多少なりと専門的な雑誌ではそうなのだが,執筆者への別刷寄贈や受注という事をやつている。執筆者の学問的業績は常に積み重ねの上で実るものだし,他人のもの,自分のものの別なく,文献を反芻しやすいかたちで座右におきたい欲求なり必要なりは,素人の想像の域を超えて切実なものであるとか。遥々,貴重な文献を得んため執筆者のもとへ手紙を寄越して,「別刷御恵贈いただきたく何卒御高配を願い上げる」と頼みこんで来る人もあるし,執筆者も,自分の仕事を早く別刷として入手し,あの人この人に配りたいと期待している。研究者同志には傍目に知れぬ深いおつきあいが有るもののようだ。有料別册を何百と注文する人は割に多いのである。医学書院では無料で50部をサービスしているがそれでも足りぬ人も多いらしい。蛇足になるが,この無料50部寄贈は実は大したサービスなので,普通は有料受注分だけ別刷をつくる出版社が多いのである。
所で,この別刷の頒布先を考えてみると,実はいささか商売上迷惑な点なきにしもあらずである。雑誌を買つていただけそうな先へは執筆者から別刷が行つてしまう。こう研究が専門化特殊化すると贈られて来る筈の別刷以外は用がないという読者も出てくる。これは私どもにとつて大なる脅威といわざるを得ない。別刷をつくつて差上げるということは,我から販売部数の伸びる芽を未萌の間につみとつているような割り切れない気もちにもなるのである。
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