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特集 産婦人科診療の今昔
産科学
産褥熱診療
Treatment of puerperal fever
水野 重光
1
Shigemitu Mizuno
1
1順天堂大学
pp.97-102
発行日 1960年1月10日
Published Date 1960/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409202125
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Ⅰ.まえがき
戦後医学は急速に進歩した。ペニシリン(PC)に始まつた幾多の抗生物質の発見は微生物による感染症の予防並びに治療に大きな貢献をもたらした。わが領域における産褥熱もその恩恵を蒙つた疾患の一つで,妊娠中毒症,出血と共に妊産婦死亡の三大原因の一つとされていた本症も最近は死亡率が低下して,その占めていた第3位を子宮外妊娠に譲つたほどであり,重篤例に遭遇することは甚だ稀となつた。もちろん産褥熱による死亡率の低下は抗生物質の臨床応用後に始まつたものではなく,サルフア剤の使用普及により既に著しく促進されたものである。従つてサルファ剤や抗生物質の進歩に伴い,重篤状態に陥つたものが総て救われるわけにはいかないにしても,産褥熱の治療が容易となつたことは確かであり,起因菌の検索が早期に施行され,これに対応して化学療法が適切に行われるならば重症に陥らずに済む場合が非常に多くなつた。さらに感染予防措置にも自信が深められ,帝王切開なども,少なくとも感染という点に関しては適応が拡大された。
しかし一方において化学療法剤の濫用というべきほどの使用の影響として,感染症起因菌側の状況が変化し,薬剤耐性菌の漸増傾向が現われ,治療薬剤の選択に慎重を要すると共に,病院などでは院内に温存されている耐性菌によるいわゆる院内感染という新しい事態にも注目しなければならなくなつた。
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