綜説
妊娠中毒症成因と実験的血圧亢進
久保 健太郞
1
1和歌山県立医科大学産婦人科
pp.509-516
発行日 1954年9月10日
Published Date 1954/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409201089
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
子癇並びに子癇前症は古来「理論の疾患」と云われ,其の成因,本態について今日猶一般に承認せられた定説はない。妊娠中毒症は妊娠なる状態を基礎として発生し,高血圧,浮腫,蛋白尿を基本的症状とし,時に痙攣,昏睡を伴い,又胎盤剥離や肺水腫の如き特殊症状を随伴し,又屡々神経系障害,胃腸障害等を伴う症状群であることには異論はないが,中毒症の臨床的分類が猶区々であり,その治療法も凡て対症的範囲を脱しない現況は妊娠中毒症の成因,本態の充分明らかでない今日当然の結果と思われる。従つて妊娠中毒症の完全なる分類,根本的予防法又は治療法はその成因の基礎的研究の完成を待つて,然る後に期待し得るものである。
妊娠中毒症の臨床的経過に2つの典型を見ることが出来る。即ちその1は若年の初産婦に好発し急性に経過し,分娩の終了と共に症状急速に消失し,次回妊娠分娩に再発を見ない形で,Dieck—mann1)の妊娠30週以後に発生するEclampsia,Preeclampsia即ち所謂true toxemiasなる概念を以つて理解することが出来る。他の1は妊娠前既に有したる或いは妊娠中比較的早期に発生したるVascular-renal diseaseが妊娠により増悪し分娩終了後漸次本来の腎,血管系障害の状態に戻る典型的な経過をとり,経産に於て反覆し屡々胎盤剥離を随伴する。
Copyright © 1954, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.