隨想
信州放談
白木 正博
pp.436
発行日 1953年7月10日
Published Date 1953/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409200873
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懐舊
人生夢の如しと云われるが,自分で體驗して見てそう思わぬでもないが,他方「日清談判破裂して」を高らかに唄うた,あの當時からのことを想うとき,「長い長い行路であつた」とも思われる。この長い旅路の大半を目指す目標に向うて,した走りに走り續けた自分が,今漸く餘暇を得て,在りし日のことどもを憶うとき,文字通り萬感交々でなかなか,まとまりが付かないが,このうちにあつて科學文化のすばらしい進展と,祖國の變り果てた姿とは,はつきり強く浮び上つて來る。
明治維新のあとをうけ,日清,日露,第一次世界大戰等々をうまく切り拔けて,自他ともに許された一等國にまで漕ぎ付けたのに,僅か4ヵ年の悪戰によつて50有餘年の結晶が碎け去り,8,500百萬の大勢が,この狹い4つの島に押し込められ,破産のうち,微妙な國際情勢のもと,これから民主文化國家として出直す,など夢にだに思わなかつたことで「人生計り難し」の感がなまなましくも,いたいたしくもある。
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