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はじめに
検診には対策型検診(住民検診),任意型検診(職域健診,人間ドック検診)があるが,受診率はいずれも低く,合わせても30%前後である.住民検診は1982年に老人保健法により国家事業となって効果を発揮したが,1998年に地方自治体の任意事業(一般財源化)になったころから受診率も内容も低下し始めた.さらに,2004年の「厚労省がん検診の指針」によって検診間隔が2年になったころから,若年者の浸潤癌が増加し始め1),死亡率も上昇してきた.原因としては,(1)低受診率,(2)受診者の固定化・高齢化,(3)細胞診の限界,などが考えられる.(1)受診率が70~80%の欧米諸国では,浸潤がん・死亡率ともに激減している.(2)高齢化・固定化した受診者の98%はHPV-DNA検査(HPV検査)が陰性で,がんの発症リスクはほとんどないことがわかった2).(3)細胞診による中・高度上皮内腫瘍(以下CIN2/3)の検出感度には限界があって70~85%であるが,HPV検査による検出感度は96%で精度が高いこともわかった3).
そこで,2012年に厚労省は住民検診の見直しを開始した.「若年層の罹患が増加し,死亡率も増加している.HPV検査を併用して,より正確に,より早期にがんを発見し,進行がん・死亡率減少をはかってはどうか」「細胞診やクーポン配布事業に加え,欧米で有効性が示されているHPV検査を,罹患率が高い30歳代に実施してはどうか」と検討委員会に諮問し,財務省に概算要求した.
また,子宮頸がんは若年化する一方で妊婦が高齢化したため,妊娠年齢と子宮頸がん年齢が重なり,妊娠前や妊娠中の子宮頸がんが急増してきた.現在,初妊婦の平均年齢もCIN3の平均年齢もともに29.5歳で,妊娠前後の円錐切除例(CIN3)が40%も占めている2).
よって,がん検診の目的は,早期がんの発見ではなく,妊孕能温存治療ができるCIN3以下の発見となってきた.わが国においてはCIN2を検診で発見・管理し,CIN3に進展した段階で円錐切除をして完治させる方法が最良と思われる.円錐切除により,HPV検査は80%陰性化し4年以上は持続する.また,切除後のHPV検査が陰性の場合は少なくとも3年間は再発がないこともわかってきた2).簡易な手術で完治できることは受診率向上の動機づけにもなる.
筆者らは,細胞診・HPV検査の感度・特異度の調査をするための大規模共同研究(cross-sectional study)を2005・2006年に行い,2007年からは出雲市(人口18万人)の住民検診で実施した.追跡期間が6年になるので,その成績(long-term follow-up study)も合わせてHPV検査・細胞診併用検診(以下HPV併用検診)の実際を解説する.
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