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はじめに
近年,女性の社会進出,晩婚少子化を背景として,月経困難症,性交時痛,不妊症,卵巣腫瘍などを主訴に産婦人科外来を受診する患者が増えている.そのなかで子宮内膜症を認めるケースは多い1).
子宮内膜症は,症状や挙児希望の有無によって治療方針が分かれる疾患である.月経困難症のみでは薬物療法が第一選択であり,不妊症では,原則として薬物療法中の妊娠が不可能なので,手術療法か一般不妊治療および生殖補助医療技術(ART)が選択される.子宮内膜症性卵巣囊胞を有する場合には,囊胞の大きさや年齢に応じて手術や薬物療法が組み合わせられる.そして通常,これらすべての治療方針は,「子宮内膜症」であって「悪性腫瘍でない」ことを前提としている.しかし,子宮内膜症では卵巣がんの発生率が一般に比べて高いのが事実2)であり,これを見逃すと予想外の重大な転帰をもたらすことがある.
そこで今回は,「がんを見逃す」というピットフォールに陥らないために,われわれが症例を通して考えに至った子宮内膜症性卵巣囊胞の治療・管理について述べてみたい.
当科では直接来院するほか,他科(内科,外科,泌尿器科など)から下腹部腫瘍の鑑別診断目的で,あるいは他院連携婦人科医から治療目的で,卵巣腫瘍の患者を紹介される場合が多い.このような腫瘍を持つ患者が受診した場合の診察手順は,(1)内診,(2)経腟超音波検査,(3)腫瘍マーカー(コア蛋白関連抗原であるCA 125,母核糖鎖関連抗原であるSTN,基幹糖鎖関連抗原であるCA 19-9,など)の測定,であり3),必要に応じて(4)骨盤MRI検査やCT検査,PET検査が行われる.以上の診察の結果で子宮内膜症性卵巣囊胞と診断された場合,どのような治療を選んだとしても,再発,がん化,治療の副作用への対応などで治療経過が長くなることを覚悟しなければならない.したがって治療中も定期的にその効果を判断して治療方針を見直さなければならず,その判断の目安となるのが「超音波検査による囊胞の大きさおよび内部エコー像の変化」,そして「腫瘍マーカーの推移」である.
そこで次に,当院で治療中,子宮内膜症性卵巣囊胞のがん化が疑われた3症例を取り上げ,超音波検査所見と腫瘍マーカーの観点から具体的に治療経過を報告する.
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