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はじめに
子宮腺筋症は30代からよくみられる疾患であるが,過多月経と月経困難症が高度になると日常生活の質は著しく損なわれる.有症状の子宮腺筋症に対しては子宮全摘術が行われてきたが,近年,出産年齢の高齢化に伴い子宮温存治療を希望する患者が,子宮筋腫同様,腺筋症患者でも増加の傾向にある.子宮筋腫に対する子宮全摘術や筋腫核出術の術前療法として1995年に紹介された子宮動脈塞栓術(uterine artery embolization : UAE)は,現在では根治療法としてその有効性は広く認められるに至った1~3).UAEは子宮腺筋症に対しても試みられ4),最近では中~長期的な有用性を検討した報告がみられるようになった5~7).われわれは,2002年に高度子宮腺筋症56例の中期的follow up期間から満足できる結果を発表したが,このなかでUAE後に自然妊娠し健児を得た症例を初めて報告した8).当初,UAEは開腹手術や腹腔鏡手術と比較して,子宮に切開創を加えずに病巣を除去,縮小することができ,術後の子宮付属器周囲癒着という新たな不妊原因の発症がきわめて少ないことから妊娠希望の患者では理想的な治療方法と考えられた.しかしながらUAEによって子宮内膜や子宮筋層も影響を受けることがわかり(図1),われわれは2001年にUAE後の子宮内膜の損傷を報告した9).UAEは「子宮動脈の塞栓」であり,子宮全体に塞栓効果が及ぶことによる正常子宮筋層,子宮内膜の損傷と,塞栓物質の流入による卵巣血管の塞栓が原因と考えられる卵巣機能低下により妊孕性を損なうリスクがあり,この新たな不妊原因はしばしば高度で難治性である10~17).このためUAEは子宮筋腫挙児希望例では相対的禁忌とされ18),個々の症例で慎重に適応を検討せざるを得ない.UAE後の妊娠報告はきわめて少なく,また不妊原因は複数あり,UAEの妊娠率を検討するのは困難であるが,今日までの報告や自験例から子宮筋腫UAE後の妊娠率は10~40%と考えられる19~23).一方,子宮腺筋症に対してはUAEの適応そのものが結論に達していない状況である.1998年から2009年までに当施設で213例の有症状の子宮腺筋症患者にUAEを施行したが,MRI造影検査で腺筋症病巣の完全梗塞に至った割合は66%にとどまり,筋腫の92%と比較して低い結果であった.
われわれは原則として挙児希望例に対するUAEは,筋腫,腺筋症とも適応外としているが,リスクを説明したうえでUAEを希望した挙児希望腺筋症例を経験したのでUAE後の妊孕能への影響を検討した.今日までに当施設でUAEを施行した腺筋症患者のなかで6名が妊娠を希望し,うち3名が5回妊娠し2回の正期産に至った.
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