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はじめに
子宮内膜症患者の受診割合は近年の晩婚化,少子化に伴い増加傾向にあり,その結果,卵巣チョコレート嚢胞を有する患者の割合も増加してきている.さらに,治療対象となる患者数も子宮内膜症発症年齢の低年齢化とも相まって,増加してきている.美容的側面や早期の社会復帰の必要性を考慮すると,低侵襲手術である腹腔鏡手術は,積極的に導入するべき手法であると考えられる.当教室においては,1980年代後半より積極的に卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下手術を行ってきた1, 2).日本産科婦人科内視鏡学会ガイドライン委員会報告(以下,内視鏡手術ガイドライン)においても,腹腔鏡下手術は開腹手術と比較して,より低侵襲であり,治療効果は開腹手術と同等であるが,妊娠率で腹腔鏡下手術のほうが有利であったとされており,明らかに腹腔鏡下手術のほうが有利であると報告されている3).
卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下卵巣嚢胞摘出術は,単なる嚢胞摘出のみではなく,付属器周囲の癒着剥離やダグラス窩癒着の開放,さらには腸管癒着剥離の手技も要求される場合もあり,手術操作を行うに当たっては確実な手術手技の獲得と,正しい解剖学的知識が必要である.卵巣チョコレート嚢胞の診断においては,悪性化もしくは癌の合併という問題もあり,腫瘍マーカーや画像診断などの多角的な視野からの術前評価も非常に重要で,診断に当たっての正確な知識も要求される.
卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下卵巣嚢胞摘出術の有効性に関するエビデンスとしてはCochrane Libraryにランダム化比較検討の報告がある.この報告によれば,嚢胞開窓術/嚢胞内面焼灼術を比較対象とすると,術後2年における疼痛再発率は嚢胞摘出群で顕著に低く,無症候期間の延長があり,また,術後妊娠率も高いとされている4).このことからも卵巣チョコレート嚢胞に対する腹腔鏡下嚢胞摘出術は非常に有効であると考えられる.術後再発は30%程度に認められるとされており,これについても十分に説明を行う必要がある.嚢胞摘出術後,卵巣機能の低下が懸念されるが,術後の生殖補助医療における成績のsystematic reviewによれば,チョコレート嚢胞に対する外科的治療の有無で,妊娠率や卵巣刺激に対する反応性には差がなかったとされている.また,この報告のなかで,IVFを施行するに当たり,治療既往のない5cmを超えるチョコレート嚢胞を有する症例においては,十分に手術に対するインフォームド・コンセントを行ったうえで,嚢胞摘出を施行してからIVFを施行することを推奨している5).
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