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編集後記
岡井 崇
pp.1166
発行日 2010年7月10日
Published Date 2010/7/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102440
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〈医療立国?〉
「医療を今後の日本を支える産業に育てる新成長戦略を……」NHKの“ビジスポ”という番組で,元内科医師で現職はどこかの会社の経営者らしい男が滔々と話している.「海外の患者に医療を提供し,患者や付き添いの家族にお金を落としてもらおうという“メディカル・ツーリズム”への……」そうして外貨を稼ぐのが日本のためになるというのだ.あほらしさを通り越して腹立たしくさえ思えてきた.
日本の医療が,制度としては改善すべき問題点を数多く抱えながらも,国民へのサービス(奉仕)度合いを押し並べて評価すれば,世界のトップレベルにあることは疑う余地のない事実である.たとえ生活保護者であっても,病院まで足を運び少しの待ち時間を辛抱するだけで,診療能力が高くしかも自分の気に入った医師に診てもらえるのだ.最高の技術を持った医師の手術も受けられる.日本ほど患者が差別されない国はない.それは,政策者の意図がどうであったかは別にして,医療から可能な限り経済論理を遠ざけた(少なくとも日本の医療提供者は,どこかの国と違い,採算より疾病の治療を大切にしている)結果なのだと私は思う.医療機器を製造するのは産業だが,医療そのものを産業と見做すのは上記の対極にある考え方で,その思想が罷り通れば,世界に誇る日本の国民平等医療は崩壊する.
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