今月の臨床 着床障害―生殖医療のブラックボックス
不妊治療に必要な着床の基礎知識
岡田 英孝
1
,
神崎 秀陽
1
1関西医科大学産科学婦人科学生殖医療センター
pp.823-827
発行日 2010年5月10日
Published Date 2010/5/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102381
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はじめに
近年,体外受精胚移植法をはじめとする生殖補助医療技術の進歩により,採卵成功率や胚移植成功率は飛躍的に向上した.しかしその一方で,移植あたりの妊娠率はいまだに不良であり,着床障害という病態が想定されている.着床メカニズムを理解することにより,着床障害の診断と治療への新たな展望が開かれるものと期待されている.
ヒトの着床現象研究には,直接生命の誕生にかかわる部分であるだけに,倫理的側面からの制約が大きく,また動物の種差による着床様式の違いが大きいために,動物実験の成績をそのままヒトに当てはめることができない.例えば,ヒトでは,胚が子宮内膜上皮に接着して上皮を貫通して間質内に埋没および侵入した後に,上皮細胞は修復されるが,マウスでは,胚周囲の上皮細胞はアポトーシスを起こして消失して,間質の脱落膜化が起こる.
着床は,胚と卵巣性ステロイドホルモンの影響下にある子宮内膜の細胞相関が複雑に絡み合って成立している.これらの過程には,胚と子宮内膜との間の調和のとれた相互作用が必要であり,胚と子宮内膜の相互間で多くのシグナル伝達が行われている1).表1のように,ホルモン,成長(増殖)因子,サイトカイン,免疫因子,接着因子,酵素,プロスタグランジンなどのさまざまな物質が関与している2, 3).着床との関連がある多種多様の因子は,子宮内膜局所で巧妙なネットワークを形成し,その産生や作用発現は相互に調節されている.
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