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はじめに
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は,月経異常,男性化,肥満などを呈する比較的頻度の高い疾患で,排卵障害を合併することが多く,不妊を主訴として来院することも多い.その概念は,SteinとLeventalが1935年に月経異常,多毛,肥満,卵巣腫大を主徴とする症例を初めて報告したことに始まる1).しかし,その疾患概念は時代とともに変遷を遂げ,現在では,おそらく単一疾患ではなく,複数の病態による症候群であろうと捉えられている.
本邦におけるPCOSの特徴として,欧米と比較して,PCOS患者で典型的症状とされる多毛,肥満などの症例が少ない,卵巣腫大の程度が軽度であることが多いなど,症状の発現頻度に違いが指摘されている.そのため,1993年に日本産科婦人科学会生殖・内分泌委員会が,本邦婦人における多嚢胞性卵巣症候群の新しい診断基準の設定に関する小委員会を設けて,日本独自の診断基準を作成した2).この診断基準は,臨床症状,内分泌検査所見,卵巣所見の3項目において日本のPCOSで出現頻度の高い所見を必須項目としたことが特徴である.しかし,男性ホルモン値が高値を示すにもかかわらずLH値が高値でないためにPCOSと診断できないケースがあるなど,欧米の診断基準との乖離が生じ,その運用に混乱が生じる問題点が残されていた.そこで,2007年,本邦のPCOS患者の診断のため,新しい診断基準が作成された(表1)3).この診断基準は,1993年の診断基準と比べて,アンドロゲン過剰状態の診断基準における重要度が増加したこと,LH過剰状態の数値的な評価基準,超音波検査における多嚢胞卵巣の評価基準の定義が規定されたことが特徴である.
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