今月の臨床 母体救命搬送
【地域における母体救命搬送体制と問題点】
2.愛知県/名古屋市
石川 薫
1
1名古屋第一赤十字病院総合周産期母子医療センター
pp.63-70
発行日 2010年1月10日
Published Date 2010/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102257
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平成18年奈良県大淀町立病院・平成20年東京都立墨東病院の報道で大きく取り上げられた2つの事案について
平成18年8月奈良県大淀町立病院で産婦が分娩経過中に脳内出血を起こし死亡に至った事案は,その過程で19の病院に当たって搬送収容先が見つからず,それをマスコミが「たらい回し」としてセンセーショナルに報道した.奈良県では平成8年に当時の厚生省より発出された「周産期医療対策事業」の通達1)が10年間放置され,総合周産期母子医療センターも周産期医療システムもなかったことに主因があり,奈良県行政の怠慢が責を負うべき問題と考える.脳内出血を起こした妊婦の搬送収容先が8病院当たって決まらず死亡に至った,平成20年10月東京都立墨東病院の事案も,NHKが大きく報道した.指定された総合周産期母子医療センターを9施設有する首都東京で生じた事案であり,舛添厚労相が急遽「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」を立ち上げた.そのなかで,都立墨東病院の産科医療体制が2名当直を維持できぬまでの苦境に陥っていたこと2)やNICUの恒常的な満床状態,および既存の周産期医療情報システムが十分に機能していなかったことなどが明らかになっている.2つの事案が刻んだ傷痕は深く,平成8年に始った本邦の「周産期医療対策事業」の見直しも視野に入れた議論が進行している.本稿では,2つの事案の共通項であった妊産婦死亡につながりかねない母体救命搬送体制について,愛知県/名古屋市の現状と問題点について紹介する.
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