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はじめに
放射線治療は,臓器を切除せずがん細胞を選択的に根絶する治療法で,形態機能温存に優れた治療法である.例えば頭頸部領域の癌においては,外科的切除により発声・嚥下・構語などの日常生活における重要な機能が損なわれ,治療後の患者の生活の質(QOL)に重大な影響を与える.そのため特に早期例に対しては古くから放射線治療が適用され,さらに近年は化学療法を組み合わせた機能温存治療の研究が急速に進んでいる.
婦人科がんにおいても,特に子宮頸癌は放射線治療に感受性の高い扁平上皮癌が多く,欧米では切除不能の局所進行例のみならず,I,II期の早期例に対しても放射線治療が行われ,優れた治療成績が報告されてきた.イタリアにて行われた無作為比較試験にて手術と根治的放射線治療による治療成績に差がないことが示され1),米国のガイドラインのみならず2007年秋にわが国で出版された子宮頸癌治療ガイドラインにおいても根治的放射線治療は治療法のオプションとして提示されている2).
しかし本邦では長らく切除可能例に対しては広汎子宮摘出術が第一選択とされてきた.わが国の婦人科腫瘍医の努力により安定した手術成績がどこでも得られることが主な理由と考えられるが,もう1つの大きな理由として,放射線治療の治療結果への不安,特に合併症への危惧が挙げられる.特に放射線治療において数か月から数年の時間を経て発生する晩期合併症は,いったん起こると難治性であることが多く,患者のQOLに重大な影響を与える.また手術後には再発予防を目的とした術後照射が広く行われてきたが,手術単独と比較して晩期合併症の頻度が著しく高まることが問題視されてきた.
この約10年間に局所進行例に対する同時化学放射線療法(concurrent chemoradiotherapy : CCRT)の有用性に関するエビデンスが続々発信されてきた3).術後補助療法としても術後照射および術後のCCRTが有用であることが明らかにされた.一方,放射線治療に化学療法を加えることにより急性期有害事象が増強することも示され,晩期有害事象の増加も危惧されている3).このような状況のなかで,有効性が明らかな放射線治療を患者のQOLを損なうことなく安全に適用していくことが今後の重要な課題と考えられる.
本稿では婦人科がん特に子宮頸癌について,QOLを重視した放射線治療の実現に向けた研究の方向性と現状について紹介したい.
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