- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
[1]背 景
精子凍結保存の歴史は古く,特に哺乳動物精子の凍結保存は,人工授精による品種改良を目的として畜産を中心に行われていた.この過程で,凍結保存液と凍結機械の改良が行われた.細胞の凍結保存は,細胞質内に凍結過程で形成される氷による細胞傷害をいかに克服するかが問題であった.哺乳動物の精子のなかで,ヒト精子は最も細胞質が少なく,凍結保存時の氷による細胞傷害が少ないため,不妊治療に対する臨床応用(人工授精)を目的として,商業ベースでその方法に改良が加えられてきた.最初の報告は,1953年のBunge and Shermanによってなされた1).本邦では,1958年飯塚ら2)によって,ヒト凍結保存精子による人工授精の報告がなされたのが,臨床応用の最初の報告である.
精子凍結保存は,射出精子がその対象であったが,近年の生殖補助技術(assisted reproductive technology:ART)の進歩とともに,精巣精子を対象とする機会が増加している.特に,非閉塞性無精子症患者(nonobstructive azoospermia:NOA)では,顕微鏡下精巣精子採取術(microdissection testicular sperm extraction:MD─TESE)の進歩により,50%前後の確率で精子回収が可能となった([91]参照).しかしながら,約半数の症例で精子回収が不能であることから,採卵とMD─TESEを同日に行うと精子回収ができずに採卵が無駄になることを避けるために,まずMD─TESEを行い回収した精巣精子を凍結保存し,これを後日顕微授精(ICIS)に用いるTESE─ICSIがNOAの治療法の主流になっている.
Copyright © 2009, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.