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はじめに
日産婦周産期委員会は2003年胎児心拍数図の判読法と定義を改訂した1).その背景となったのは,判読の観測者間誤差のみならず観測者内誤差も高いことが胎児心拍モニタリングの有益性を証明できない一因になっていたことであった.本来,胎児心拍数図の判読においては,子宮内で起きている現象を生理学的に解釈したうえで心拍数図を読むべきであるが,しかし,胎児心拍数変動の生理的意義の解明が未だ不完全であるため生理学的・臨床学的意義を重視した判読は解釈がばらつきやすい.それが観測者間誤差の大きくなる原因の1つでもあった.そこで生理学的・臨床学的意義を無視せず,かつ観測者間誤差を減少させるため,より客観性の高い判断基準の作成を目的としてこの改訂はなされた.この時点では,判定基準の統一はされたが判読結果に対応する指針の決定には至らなかった.
その後現在まで胎児機能不全に対する指針のコンセンサスは存在せず,1997年NICHDで行われたWorkshop member(米国における周産期のエキスパート)による胎児心拍数モニタリングの判読でも以下の2点以外では指針に対する合意を得ることができなかった.
1.Reassuring FHR patternとは,胎児心拍数基線が正常である,基線細変動が正常である,一過性頻脈がある,一過性徐脈がない,の4項目のすべてを満たしている波形をいい,このときの児のwell─beingは良好と判断する.
2.反復する遅発一過性徐脈や反復する変動一過性徐脈や遷延一過性徐脈(徐脈を含む)のいずれかに基線細変動消失を伴う場合は胎児低酸素症のおそれがあるので急速遂娩の必要がある.
2006年に提示された定義では,上記の1以外の胎児心拍異常すべてが胎児機能不全と診断されることになる.これでは方針を決定するうえで不十分であり,胎児機能不全と診断するだけでなく胎児状態の重症度に応じた細分類が必要なのは明らかであった.そこで,指針を作成する前段階として,臨床現場で,さまざまな胎児心拍数パターンに対応してどのような方針で胎児管理を行っているかの調査目的に,2007年周産期委員会は日産婦周産期登録施設を対象に胎児心拍数パターンとそれに対する臨床行動(level 1 : 経過観察からlevel 5 : 急速遂娩)のアンケート調査を行った.その結果は日産婦に報告されている2).胎児心拍数波形をまず基線細変動の正常と異常に分類し,胎児心拍数基線が正常脈・頻脈・徐脈の場合それぞれについて各一過性徐脈を高度と軽度で分けたすべてのパターンへの対応を問うた.また,基線細変動増加とサイナソイダルパターンは別にして調査を行った.
この結果を受け,2008年,日産婦周産期委員会は以下を基本方針として「胎児心拍数波形の判読に基づく分娩時胎児管理の指針(案)」を作成した3).
1.胎児心拍数波形の,リスクに応じた段階的分類を行う.
(ア)これまでの知見に基づき胎児の低酸素・酸血症などのリスクを推量する.
(イ)心拍数基線細変動を重視する.
(ウ)過度に詳細な分類は避ける.
2.上記分類に対応した胎児管理指針を作成する.
(ア)米国NICHDの提言を参考にする.
(イ)日本の施設の現状(周産期登録施設の調査結果)を尊重する.
(ウ)施設による対応能力(人員・設備)および症例の背景因子を考慮して方針を決定できるようにする.
この指針の基本理念は胎児心拍数波形と処置を直接対応させるのではなく,まず波形を分類し,それに基づき日本の現状に合う妥当な方針を選択できる点に置かれる.以下に指針(案)を解説する.
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