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1 はじめに
卵巣癌はほかの婦人科悪性腫瘍と比較しても高い抗癌剤感受性を有し,抗癌剤の投与法・用量や手術療法についてもいち早くコンセンサスが得られ,本邦でも最も早く治療ガイドラインが刊行されている.しかし,卵巣癌手術における後腹膜リンパ節郭清,特に傍大動脈リンパ節郭清については,進行期を決定するための診断的意義はコンセンサスが得られているものの,その治療的効果については大規模試験が困難であることから,卵巣癌治療ガイドラインにも「後腹膜リンパ節郭清術が予後改善に寄与するという臨床比較試験の報告はなく,治療的効果に関しては不明である」と記載されている.
術後合併症は多くの因子に起因して生じるものであり,傍大動脈リンパ節郭清をすることによってどのくらいの割合で合併症が生じるかについて論ずるのは難しいが,一般には,(1)手術時間の延長とそれに伴う出血量の増加,(2)術後のイレウス,(3)リンパ嚢胞およびリンパ浮腫,(4)乳び腹水などが挙げられる.加藤ら1)の報告によると,骨盤リンパ節郭清術のみの術後リンパ浮腫の頻度12.8%に対し,骨盤+傍大動脈リンパ節郭清術後の頻度は20.6%と有意に増加し,後腹膜リンパ節郭清の範囲を拡大することにより下肢リンパ浮腫の頻度は増加するとされる.ひとたびリンパ浮腫が発生すると足の可動性の障害や疼痛ばかりでなく,小さな傷でも感染を起こし蜂窩織炎などを併発することも稀ではない.したがって,必ずしも必要がないものであれば,患者の術後QOL向上のためにリンパ節郭清を省略あるいはその範囲を縮小することも今後考慮されるべき課題である.
本稿では,ガイドラインでも「治療的効果は不明」とされている傍大動脈リンパ節郭清の「治療効果」について論ずることはきわめて困難なことであるが,「腫瘍細胞を完全に除去できる」とする立場と「リンパ節郭清はあくまで進行期決定のため」とする立場を考慮しながら,その是非を考えてみたい.
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