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1 はじめに
近年の集学的治療の導入および新たな化学療法レジメンの開発により,悪性腫瘍治療の成績は一定の改善を認めている.実際欧米での統計では,主要な悪性腫瘍患者の5年生存率は1975~1977年の50%から1996~2002年の66%へと有意に改善している.特に15歳以下の小児患者では同時期の予後比較で5年生存期間が58%から79%へと改善が著明であり,大多数の小児患者が悪性腫瘍を克服できる時代になっていることを示している.また,女性悪性腫瘍患者の5~6%は40歳以下で発症しており,その頻度は健常人約50人に1人の割合になる1).この結果は,妊娠・出産を終える前に悪性腫瘍に罹患する女性が少なくないことを示している.
悪性腫瘍の治療戦略は,従来の根治性向上を目指した拡大手術から,乳癌における温存手術と術後放射線療法の組み合わせに代表される,EBMに基づいた機能温存術式や内視鏡手術による手術の低侵襲化の導入へとその概念は大きく変遷しつつある.ここで特に婦人科領域では,手術侵襲に加えて,臓器温存による妊孕性保持が他領域にはない機能温存の特徴として挙げられる.婦人科領域の代表的な悪性疾患である子宮頸癌,子宮体癌および卵巣癌に目を向けてみると,子宮頸癌に対しては子宮体部を温存する広汎性子宮頸部摘出術が,子宮体癌に対しては初期病変に対する黄体ホルモン療法が妊孕性温存治療として知られている.一方卵巣に関しては,化学療法が奏効する胚細胞腫瘍に関しては妊孕性温存手術と化学療法の組み合わせが定着している2).しかしながら,上皮性卵巣癌に目を向けると,手術による腫瘍摘出の完遂度が予後改善に不可欠であるとするmaximum cytoreductionの概念が妊孕性温存と相反していること,卵巣癌に対する根治を目的とした標準術式自体が欧米と本邦ではいまだ相違があることから,若年症例に対する妊孕性温存手術の適応およびその術式に関して一定の見解に至っていないのが現状である.しかしながら,卵巣癌は最近の画像診断をもってしても術前の病変進行の正確な評価は時に困難であり,開腹時に予想より病変が進行しており,妊孕性温存の適応につき苦慮することが少なくない.
そこで本稿では,上皮性卵巣癌に対する妊孕性温存手術の適応とその適用の実際について,概説したい.
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