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1 はじめに
現代の不妊治療はSteptoe&Edwardsによる体外受精胚移植法(in vitro fertilization and embryo transfer : IVF-ET)の成功により生殖補助医療(assisted reproductive technology : ART)の扉が開かれ,卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection : ICSI)がARTの普及を急速に拡大させた.これと相俟って卵巣刺激法においてもGnRHアゴニストやアンタゴニストの開発が複数の成熟卵の確実な回収を可能とし,ARTの主流は卵巣刺激による多数の成熟卵子を用いる方法が主流となった.その一方で,卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyperstimulation syndrome : OHSS)は,GnRHアンタゴニストの使用や受精卵の全凍結によりある程度のリスクが軽減されたとはいえ,ART専門医にとって依然として最も懸念される副作用の1つである.
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovary syndrome : PCOS)は性成熟女性の約5%という比較的高い頻度にみられる排卵障害を主とする疾患であり,その40~80%に妊孕性に問題があるといわれ,不妊治療の現場では古くからよく遭遇される疾患である.その一般不妊治療で最も懸念される副作用は高次多胎とOHSSである.また経腟超音波の普及にともない,正常周期婦人でも20~30%に多嚢胞性卵巣(PCO)を認めることが明らかとなっている.すなわち,ARTの適応患者においてもPCOSやPCOの患者が相当数含まれることとなり,卵巣刺激に当たってOHSSの危険を伴うことは避けられない.
未熟卵体外成熟-体外受精-胚移植法(in vitro maturation, in vitro fertilization and embryo-transfer : IVM-IVF)は,無刺激もしくは少量FSH/HMGを投与した卵巣の小卵胞より未成熟卵を採取し,体外成熟卵に顕微授精を行い,得られた受精卵を子宮内に移植する方法である.IVM-IVFの臨床応用は1991年に未熟卵由来胚がドナー胚として用いられ,妊娠出産に成功したのに始まり1),1994年にPCOS患者に不妊治療の一環として初めて用いられた2)比較的新しいARTの選択肢である.その最大の利点は,卵巣刺激のためのゴナドトロピン注射をほとんどもしくはまったく必要としない点にある.そのため卵巣刺激の最も危険な副作用であるOHSS発生の危険性がないばかりではなく,注射に伴う肉体的,精神的苦痛さらには時間的制約,経済的負担軽減につながる.また,いまだ明らかとはなっていないゴナドトロピン投与による長期的影響に関する懸念もない3).画一的にすべての患者に標準的なプロトコールを当てはめるのではなく,個々の症例に適した刺激を選択するという近年のfriendly ARTの方向性と一致するものである.その一方で,IVM-IVFによる妊娠率はIVF-ETに比べ低いといわれてきたが,世界的にみてもその妊娠率は徐々に上昇してきており,PCOSに対してはARTの選択肢の1つとしての地位を確立しつつある(表1)4~7).また,正常月経周期婦人や体外受精反復不成功例に対しても応用され成果を上げている8, 9).当院では本邦初の成功以来10, 11),方法に改善を重ね,現在ではPCOSおよびPCO症例に対してIVM-IVFをARTの第一選択としている.
本稿ではPCOS(PCO症例を含む)に対する当院でのIVM-IVFの方法を詳述するとともに最新の妊娠率を呈示する.
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