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はじめに
近年の産婦人科診療において,遺伝医学的対応が求められる場面が急増している.従来から実施されていた羊水検査や母体血清マーカー検査などは妊婦やその家族が読む一般雑誌に多く記載されているが,必ずしも妊婦やその家族に正しく理解されておらず,産婦人科医が対応に困るケースもある.一方,胎児の超音波検査の精度が高まり,思いがけない胎児の異常を観察したり,nuchal translucency(NT)の肥厚をはじめとする胎児の異常とはいえないが無関係ともいえない,説明の困難な所見が検出されることもあり,多くの産婦人科医がその対応に苦慮している.また,疾患にかかわる遺伝子やその変異が特定されるようになり,これらにかかわる出生前診断の相談や遺伝学的検査の問い合わせも寄せられる.多くの産婦人科医が出生前診断にかかわらず挙児や妊娠継続の不安を持つ妊婦やその家族の相談を受け,時間をかけた診察と説明を行いたいと思っている.しかし,多忙な産婦人科医師が多くの時間を割くことは難しいのが現状であり,産婦人科の医師数が少ないことも大きな問題である.
遺伝医学の進歩に伴い,日本でも上記のような相談に対応できる遺伝カウンセリングが始まっている.遺伝カウンセリングとは,「遺伝性疾患の患者・家族またはその可能性のある人に対して,生活設計上の選択を自らの意思で決定し行動できるように臨床遺伝学的診断を行い,医学的判断に基づき適切な情報を提供し,支援する医療行為」である〈鈴木友和,他 : わが国における遺伝カウンセリングのあり方について,平成11年度厚生科学研究費補助金(子ども家庭総合研究事業)「遺伝医療システムの構築と運用に関する研究」(主任研究者 : 古山順一)〉.
産婦人科医師と遺伝の専門家が協力して,胎児検査や出生前診断などに対する正確な情報提供を行うことで,来談者が納得を得られる遺伝カウンセリングと,よりよい産婦人科医療が提供できるのではないだろうか.産婦人科医が信頼のおける遺伝の専門家を得て,遺伝カウンセリングを託することができれば,産婦人科医はより専門性の高い領域に本来の力を注げるということである.
このところ,国内でも遺伝医療に携わる専門家の制度が整ってきた.臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーである.遺伝医学,生命倫理,来談者への心理的配慮を学んでおり,遺伝性疾患の確定診断・出生前診断・保因者診断ばかりでなく,近親婚など,結婚や妊娠をきっかけとした相談に対応できる.また,遺伝学的検査実施には,遺伝の専門家による遺伝カウンセリングが必要なことが厚生労働省のガイドラインに記載された.遺伝カウンセリングを含め,遺伝医療は各診療科の医師および臨床心理士や看護師,必要によっては地域の保健師とも連絡を取るチーム医療が基本である.主治医や各専門科の医師との「信頼」と「密接な連携」がカギとなる.
遺伝要因が発症にかかわっている遺伝性疾患は特別の家系だけの問題ではない.すべての人の問題である.われわれは現在健康でも将来遺伝性疾患を発症する可能性があり,だれもが病気のリスクを持っているからである.本稿では,臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーの特徴と現状について述べる.
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