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はじめに
分娩がどのように進行し終了するかを予測することは困難である.なぜなら,分娩の進行に影響を及ぼす因子は多数存在し,かつ不確定な要素が多いため,その進行を予想するときわめて多岐にわたるカスケードを想定しなければならない.われわれ産婦人科医は,常に注意深く分娩の進行を観察し,各分岐点でどちらの方向(正常な経過か正常を逸脱しているか)に分娩が進行しているか判断し,正常を逸脱する方向に向かい始めたことを認識した場合には,医学的介入を行い,つつがなく分娩が終了するよう努力している.そのような努力の賜物が,1950年に4,117例であった妊産婦死亡数を2004年には49例まで減少させたといえる.死亡数が半世紀で1%にまで減少した分野は周産期領域以外には見当たらず,その減少に努力したわれわれの先人達に心より敬意を表するものである.
近年,妊産婦の高齢化や合併症を有する妊婦の増加により,ハイリスク妊婦の割合が増加している.にもかかわらず,妊産婦死亡数が激減しているのは,ハイリスク妊婦の管理法の向上とハイリスク妊婦を周産期センターなどの高次医療機関で管理するというシステムが構築されつつあることが大きく貢献していると考えられている.実際,妊娠高血圧症候群の重症型をはじめとする種々の合併症を有するハイリスク妊娠,分娩時大量出血が予想される妊婦(前置胎盤など)などにおける死亡例が大きく減少した.また,近年は分娩直後の血栓性肺塞栓症に対する関心が高まり,予防法や迅速な診断・治療も普及し,重症例は減少傾向にある.すなわち,ハイリスク症例の死亡数は大きく減少している.これに対し,いわゆるローリスク妊娠はどうなのだろうか.当センターの分娩統計からは,妊産婦死亡はハイリスク妊婦よりもローリスク妊婦のほうが明らかに多いという興味深い結果が得られたので,その結果を報告し,その原因について症例を呈示して分析する.
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