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本邦における周産期医療の成果は,世界一とされる周産期死亡率に代表されるが,妊産婦死亡率については“健やか21”の目標としてさらなる改善が取り上げられている.一方,昨今の産科医を初めとする周産期医療スタッフの枯渇,高齢妊婦の増加など,妊産婦死亡率上昇因子の圧力が目立つのも事実である.このような背景を受け,日本分娩管理研究会(代表世話人 : 佐藤和雄日本大学名誉教授)では,“母体救急はどこまで達成されるか”の題の下,シンポジウムが開催された.本特集の前半はそのシンポジウムの記録集である.
いかにわれわれの先人たちが,妊産婦死亡を防いできたのかという歴史的変遷を語られた山崎峯夫神戸大学助教授は,中毒症の概念の成立,産褥熱の克服などを契機として段階的に減少した過程を解説された.また高本憲男岡山大学講師は,昨今増加が著しい高齢妊婦やかつては妊娠を諦めざるを得なかった合併症妊婦などハイリスク妊娠・分娩管理の成果を発表されるとともに,巷間いわれることの多い“よいお産”と安全確保との両立に疑問を投げかけられた.一方,多くの母体搬送症例を受け入れている埼玉医科大学総合医療センターからは,関博之教授が実際に母体死亡に陥った症例の多くがローリスク群に属していたことを指摘され,危険信号を的確に認識することによるローリスク群のリスクマネジメントを提唱された.また,地政学的特徴をも考慮した独自の周産期医療システムを構築され,周産期死亡率・妊産婦死亡率の大幅な改善を達成された宮崎大学の徳永修一助手は,その成果を報告された.北里大学の谷昭博講師は,昨今の産科医枯渇の大きな要因となった法的責任の問題を取り上げられ,いくつかのテーマについて問題点を指摘された.最後に,宮崎日日新聞社の中川美香記者が,ハイリスク妊娠を克服された母親としてまた記者としての眼からみた周産期医療を語られた.
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