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1 診療の概説
外陰ヘルペスとは外陰部の単純疱疹ウイルス(herpes simplex virus : HSV)感染症のことであるが,女性の場合は外陰のみならず腟や子宮頸部にも感染が波及するので,最近では「外陰ヘルペス」よりも「性器ヘルペス」と呼称することが一般的である.HSVは免疫学的に1型と2型に分類されており,性器ヘルペスは2型感染が主体であるとアメリカでは指摘されている.ところが,日本では1型感染がむしろ多いというのが定説になっている.
性器ヘルペスの病型は急性型(初発型)と再発型に分類される.急性型は主に初感染の際の病態で,再発型は骨盤神経節に潜伏感染したHSVが何らかの誘因により再活性化して病巣をつくる場合をいう.日本では急性型性器ヘルペスでは1型が同定されることが多く,再発型では2型優位となっている.当科の過去15年間のデータにおいても同様で,急性型症例の約70%は1型で,再発型の80%は2型であった(表1).1型感染は主にセックスパートナーの口腔から,いわゆるオーラルセックスにより感染を起こし,一方,2型は性器からの通常の性行為による感染と考えられる.口唇ヘルペスなど口腔内から検出されるHSVはほとんどすべて1型であり,一方,2型は下半身のヘルペス病巣からもっぱら同定さるというように,HSVはヒトの体の上半身と下半身で住み分けているウイルスといえる.
上で述べたように,1型は性器にもしばしば初感染を起こすが,再発型に移行することは少ないことが臨床的には明らかである.HSV1型は骨盤神経節への潜伏感染を起こしにくいのか,潜伏感染をしても再活性化しがたいのか,現在のところよくわかっていない.
急性型性器ヘルペスは外陰部などに潰瘍病変が多発し,激しい疼痛,特に排尿時痛を伴い,ときには発熱や鼠径リンパ節腫脹も認められる.HSV2型感染に比べ1型感染のほうが症状が激しいといわれている.症状は有効な治療を行わないと3週間ほど持続して消失する.再発型の再発頻度は症例により異なるが,ほぼ同じ部位に水疱や潰瘍病変が繰り返し出現する.病変は,未治療でも数日から1週間程度で治癒する.妊婦が分娩周辺期に性器ヘルペスにかかると経腟分娩時に新生児にHSVが感染し,新生児ヘルペスという致死的な疾患を引き起こすことがある.そのために,HSV感染の周産期管理法がいろいろ提唱されている.
性器ヘルペスの診断はウイルスの同定が基本である.日本では健康保険適用検査法としては蛍光抗体法による同定のみが認められている.同法は特異性は問題ないが,感度が悪く50%程度の検出率といわれている.細胞診によるHSV感染細胞の確認は簡便な方法であるが,水痘・帯状疱疹ウイルス感染細胞との鑑別が困難である.抗体検索法は結果の解釈が難しいので,臨床検査法としては勧められない.いずれにしても,簡便で感度,特異性の高い臨床的ウイルス検出法の速やかな開発が期待される.
性器ヘルペスの治療は有効な抗ウイルス薬であるアシクロビルを用いることが原則である.重症の場合には点滴静注で,中等症以下や再発の場合には経口剤で治療する.つい最近,アシクロビルのプロドラックであるバラシクロビルが性器ヘルペスの治療薬として保険適用となった.また再発型ではアシクロビル軟膏による治療も広く行われている.なおアシクロビルの妊婦に対する投与の安全性は確立していないが,欧米では周産期管理の目的で妊婦への処方も行われているようである.
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