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1 診療の概説
尖形コンジロームはヒトパピローマウイルス(human papillomavirus : HPV)感染症の一種である.現在,HPVは90種類以上の遺伝子型に分類されているが,そのうち性器に同定される型は約半数である.われわれが検索した尖形コンジロームの病変部からはHPV6型または11型のみが単独で検出された.したがって,われわれは尖形コンジロームはHPV6型,11型の感染による性器疣贅と考えている.一方,HPV44型のクローニングサイト(発見された病変)はvulvar condylomaとされているので,HPV44型が同定される尖形コンジロームがあることも間違いないと思われる.しかし,われわれの経験からそれほど頻度は多くないものと考えられる.いずれにしろ,起因HPVが性行為により性器に接触感染することにより数週間から数か月という比較的長い潜伏期の後に尖形コンジロームを形成するものと考えられている.また,ときに6型,11型感染により口腔内に疣贅を発生することもある.特に喉頭に感染すると喉頭乳頭腫(laryngeal papilloma)という腫瘍をつくり,気道障害の原因になる.
妊婦の尖形コンジロームでは新生児へ産道感染を起こし,乳幼児期に喉頭乳頭腫が発生することが危惧される.日本では稀とされているが,尖形コンジローム症例が増加傾向にあるので注意を払う必要がある.われわれは,妊娠末期に除去が困難と思われる尖形コンジロームが下部女性性器に認められた場合には,帝切分娩を勧めている.
尖形コンジロームの診断は,HPV診断法が未確立な現状では臨床病理学的に行うことが一般的である.鑑別すべき疾患としては腟前庭乳頭腫症(squamous vestibular papillomatosisまたは hairy nympha)がある.hairy nymphaは腟前庭部に微小な乳頭腫が集簇的に発生するものであるが,しばしば尖形コンジロームと診断されることがある.病因は不明であるが,少なくともHPV感染症ではない.
治療は薬物療法と手術療法がある.治療薬としては,欧米ではpodophyllin(CondyloxTM),imiquimod(免疫賦活剤,AldaraTM),cidofovir(抗ウイルス剤でcytosine analog,VistideTM),interferonなどが使われているが,文献で調べた限りでは効果は必ずしも十分とはいえないようである.これらの薬剤は日本では未発売または未承認の薬剤で,使用できない.本邦では5―FUやブレオマイシンといった抗癌剤の投与が行われることがあるが,適用外使用なので,投薬に際しては患者との間でインフォームド・コンセントを十分にとる必要がある.手術療法としては切除やレーザー手術,液体窒素による凍結療法などがある.
われわれは,CO2レーザーを用いた蒸散法を行っているが,1回の有効率は70%程度で欧米の薬物療法と遜色ない.難治例もかなり存在するが,根気よく切除,レーザー蒸散を重ねるとやがて疣贅が消失する.ただし,疣贅が消失することがHPV感染の消失を意味するとは即断できない.手術療法でも患者への説明が大切で,HPV感染症であること,理想的な治療薬は未開発であること,しばしば再燃する性格があること,などを詳しく説明する必要がある.
尖形コンジロームは外陰部のみならず腟や子宮頸部にも病変が同時に存在することがある(図1).したがって,女性患者では産婦人科医が診療にあたることが必要である.また6型,11型以外のHPV感染も考慮する必要がある.外陰尖形コンジロームで子宮頸部異形成や腟異形成を伴ったり,外陰部でも尖形コンジロームと外陰異形成(bowenoid papulosis)が共存することもある.尖形コンジローム患者の診療では,疣贅のみに目を奪われるのではなくて,異形成病変の有無をコルポスコープで観察するなど,下部女性性器の詳しい診察を行うことが必要である.さらに尖形コンジロームは性感染症であるので,そのほかの疾患,例えばクラミジアや淋菌感染症などの有無を調べることも重要である.それらを含めた子宮頸管炎や腟炎などによる帯下の増量が尖形コンジロームの増悪因子になることがある.
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