- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
はじめに
更年期以後のQOLに関する疾患の研究を目的としたWomen's Health Initiative(WHI)臨床試験は1),2005年まで継続予定であったが,結合型エストロゲン(CEE)0.625 mgと酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)2.5 mgの合剤を連続投与としたホルモン補充療法(HRT)群において乳癌の発症が前もって設定してあった数値を超えたため,2002年の7月に急遽中止された.
HRT群における解析結果では,全死亡率やすべての癌の発症はHRT群とプラセボ群間で差がなかったが,HRT群で全心臓疾患は22%増加し,骨折は24%低下した.さらにこの結果を詳細にみてみると,HRT群で心筋梗塞が29%,脳卒中が41%,肺塞栓症が113%,乳癌が26%増加する一方で,大腸癌は37%,大腿骨骨折は34%減少しているが,総合的にはHRTによるリスクがベネフィットを上回ると判定された.しかし,HRTにより乳癌が増加することは従来から報告されてきたことで,今回はじめて判明したわけでなく,しかも26%の増加はこれまでの報告と比較しても決して高い頻度ではない.また,HRTの大腸癌や骨折のリスク低下というベネフィットも従来から報告されており,今回の試験により再確認されたといえる.WHIの報告で注目すべき点は,これまでHRTは心血管疾患(CVD)の発症を低下すると考えられてきたが,逆に増加したことである.これらの成績からHRTには抗動脈硬化作用のみならず,動脈硬化に促進的な作用も有すると考えられる.したがって,HRTの将来の展望を考えるうえで,CVDのリスクをいかに減少させるかが当面の課題である.
本稿では現在までに判明しているCVDに対するHRTの短所について述べ,今後のHRTのあり方についても概説する.
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.